思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『星を創る者たち』谷甲州
☆☆☆☆★
河出書房新社

コペルニクス隧道』☆☆☆☆
クラークの『月面ーー』を思わせる、液体のような流砂による事故を描いたもの。

『極冠コンビナート』☆☆☆☆
火星の工場用ドームで起きた、謎の二酸化炭素濃度上昇から始まった事故を描く。雪だるま式に拡大する被害を一気に逆転するあっさりしたラストが印象的。この連作はどれも結末をすべて描かないで読者の想像に委ねる形式のものが多い。

『熱極基準点』☆☆☆☆
測量というのは土木工場の基本中の基本だろうが、それがSFと言えども小説のメインテーマになることは少ない。地震の原因と思われていた○○○○が実は………と反転するラストは、正にSFのセンス・オブ・ワンダー!堀晃一ばりの秀作。また、連作としての重要な伏線も埋め込まれている(伏線というには初読時から伏線であることはバレバレだが)。

メデューサ複合体』☆☆☆★
本作以降は『NOVA』のために書き下ろされたもので、本作のみ既読。

『灼熱のヴィーナス』☆☆☆★
金星という過酷な状況下での開拓のディテール(もちろん建設現場的な)がみどころ。本作にかぎらず徹底的な現場主義がこのシリーズのテーマで、建設会社で働いていた作者の経験が生きている点。さすがに本作の結末はあっけなさすぎでは…?

『ダマスカス第三工区』☆☆☆★
土星の衛星エンケラドゥスの工事現場で起こった謎の事故。最初は事故じたいも不明、というのが本作の特色。その実態は、いちおうの解決がつけられものの、完全にすっきり納得、というものではない。本作執筆時には結末の構想は形になっていただろうから、ミステリの連作短編におけるダミーの解決、というほどてはないまでも、仮の真相、というところか。

『星を創る者たち』☆☆☆☆☆
正に本書のクライマックスにして全編クライマックス。本作すべてが連作の「解決編」と言っても過言ではないだろう。
全部の短編に伏線があった訳ではないのが惜しいところだが、風呂敷が畳まれるごとに次々に物語のスケールが広がって行く様は正に圧巻。
「宇宙土木」の意味が「宇宙で土木作業する」から「宇宙を土木する」へスライドするという結末は、予想できたとは言え、太陽系の構造、数千万年間の地球の歴史、そして人類とは何か、地球外生命は存在するのかなど(ここまで書くとネタバレか)、それを越える時空的スケールアップが素晴らしい。同じ作者の傑作『パンドラ』にも通じる、淡々としながら凄まじい戦い(まさかこのシリーズで戦争が描かれるとは!)の描写も凄い。

星を創る者たち (NOVAコレクション)星を創る者たち (NOVAコレクション)
甲州

河出書房新社 2013-09-26