思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

ソリトンの悪魔(上)』梅原克文
☆☆☆★
朝日ソノラマノベルズ

作者の第2長編で、『二重螺旋の悪魔』に似たタイトルだが、特に関連性はない(少なくとも上巻の範囲内では)。
いきなり海上都市が沈没するというスペクタクルで始まり、まさにハリウッド映画ばりのジェットコースターノベルだが、気になることがいくつか。
ホロフォニック・スキャナーの設定が『ローレライ』とそっくりだが、これは本作が95年だし、SF的にも文句のつけどころはない。
ソリトン生命があっさり肯定されているのだが、説明不足なのか説明力不足なのか、どうにもイメージできない。(ちなみに、ソリトンについては、本も読んだことがあるので、ある程度の知識はあるつもり)
何で減衰しない=恒常的とはいえ、波が意識と力を持つのか?(そもそも外部に衝撃波を出したらエネルギー保存即からしソリトンの定義と矛盾するのでは?)
あとは小説として、パニックと悲鳴しか印象に残らない主人公の娘と、いけすなないその元妻はなんとかならなかったものか。(ハリウッド映画的にはありがちだが、クラーク的SFなら全く鬱陶しいだけ)
SFとして、どんな解決をつけるのか、つけないのか、果たして…。
もうひとつの善玉的ソリトン生命が登場するのも都合良すぎな感じ。ある種のファーストコンタクトものが書きたかったのかもしれないが(上巻終盤のそのくだりはまさにその状況だが。まともなハードSFなら、素数を発信するところで、あれで意志疎通できるのは安易すぎ?)

ソリトンの悪魔(上) 日本推理作家協会賞受賞作全集(84) (双葉文庫) (双葉文庫―日本推理作家協会賞受賞作全集)ソリトンの悪魔(上) 日本推理作家協会賞受賞作全集(84) (双葉文庫) (双葉文庫―日本推理作家協会賞受賞作全集)
梅原 克文

双葉社 2010-06-10