天藤真といえば、ユーモア・ミステリーで有名だし、裏表紙には「野球ミステリの傑作」とあったので期待して読んだが……。
いきなり、「東京タワーの展望室からの人間消失」がある。これのどこが野球ものなのかと危ぶむが、消えるのが日本シリーズを控えた監督というから、本筋とは大いに絡んで来る。監督と日本シリーズの行方は……??
球団名が架空であること、失踪した監督が、球団名「大阪」から、球団名「東京」に移っていること、そして「大阪」が常勝球団であることから、何度名前が出てきても、さっぱりどっちがどっちか覚えられなかった(@_@) 実名は無理にしても、せめて強さ設定は逆(「東京」が日本シリーズ9連勝とか)にして欲しかった。
野球ものとしては、そもそもが実在のチームをイメージできないので、采配とか、試合後展開にも何の興味も湧かない。そこまで詳しい描写はないが、それでも、試合は結果だけで良かったのではないだろうか。唯一、面白かったのは、変速フォームの投手が、ピンチを救ったことくらい。
また、そもそも倉知淳の解説でも、本格ミステリーとされているが、どこが?? せめてサスペンスでしょ。
とは言え、ミステリとしてはともかく、小説としてはラストの叙情性とか、読後感だけは良かった。監督の娘の、一人称が「オレ」とか、がらっぱちなのに、ツンデレなキャラ設定や、捜査を依頼される新聞記者たちの描き分けも良い。このへんは、さすが天藤真というところ。
以下ネタバレ
読み終えてみれば、本作は球界を舞台にした業界謀略もの、広義の企業スパイものと言える。野球をテーマにした純粋なミステリーは、吉村達也とか佐野洋が書いているが、そちらのほうがミステリーとしての焦点が絞られていて、面白かった。本作は、逆に、事態が次々に起こっていて、なんかめんどくさい。