思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『THE ゴジラ COMIC』
☆☆☆
JICC出版局
平成2年に出た、あの河崎実町山智浩が企画した、マンガアンソロジー。時期的には『VSビオランテ』の後で、『VSキングギドラ』の前のようだ。
このテのアンソロジーには珍しく、一級のマンガ家が揃っているのが特徴。
マンガとしてのデキはともかく、特筆すべきなのは、さすがは実相寺昭雄ともいえる『小さなゴジラ』や、宗教マンガのような『Gからの警告』、トンデモ一歩手前ともいえる痛い一峰大二ゴジラ再び地球防衛決戦』など。
痛すぎて恥ずかしいのがゴジラがファンタジーもののように鎧や武器を持って敵怪獣と戦うという、破李拳竜のやつ。
無難なのは横山宏麻宮騎亜石川賢あたりだろうか。意外と、近藤豊(現在は「近藤ゆたか」表記)の時代マンガ(!)が最もマンガ表現としての完成度が高いかもしれない。

Theゴジラcomic (宝島コミックス)Theゴジラcomic (宝島コミックス)

宝島社 1990-01


『大失敗』スタニスワフ・レム著/久山宏一訳
☆☆☆★
国書刊行会

レムだけに皮肉な『泰平ヨン』またはホールドマンの『擬態』のような話かと思っていたら、意外や意外、本格SFだった。
いちおうは現在の物理法則に則った宇宙だが、口頭で会話ができるAIはともかく、人工冬眠を超えた「ガラス化」によって高Gに対応していたり、あっさりと衛星を1つぶち壊したりと、ほとんど『スタートレック』のような超科学(物理法則に則った、というのに超科学、というのはおかしいが)で遠方の惑星を探査して、異星人に接触しようとする。
異星人のいると思われる軌道上から伺える異星人の姿は、どうやら複数の勢力に分かれて争っているように見えた。ある程度の技術レベルは持っているらしいのに、呼びかけには答えがない。
ファーストコンタクトものは色々あるが、ここまでエイリアンの実態に掴みどころかがないタイプは初めてかも(いちばん近い雰囲気なのは『パンドラ』だろうか)。また、それがテーマでもある。もちろん『ソラリス』のように、正体じたいが不明なものもあるのだが、それともちょっと違う。いることは間違いないのに、接触しようとしない、という感じ。
考えた人類が、レーザーを改良して、空に物語(映画?)によって人類を紹介しよう、というアイデアが面白い。いろいろ内容を考えるのだが、私ならディズニーの『ファンタジア』の「春の祭典」を上映するけどなあ…。ポーランドでは馴染みがないのか?
そのくせ、終盤になって異星人からあっさりと言葉によるメッセージが届く(コンピュータが解析・翻訳したのかもしれないが、その描写はない)というのがちょっと不満。
いろいろあって惑星に上陸した一人の隊員が目にした異星人の姿とは…というのがオチ。
これ、どう見ても短編のネタだよね…。それを500ページの大長編にするんだからなあ…(読むのに5日もかかったよ)。
長いのはプロットの複雑さや長大さではない。作者の地の文の饒舌さによるものだ。それがなければネタじたいは50ページで済む話であり、背景設定や余談ともいえる文明批評などが好きな人には答えられないのかもしれないが…。キリスト教の司祭がメンバーにいるなど、星野之宣の『悪魔の星』を連想させなくもない。

FIASKO‐大失敗 (スタニスワフ・レムコレクション)FIASKO‐大失敗 (スタニスワフ・レムコレクション)
スタニスワフ レム Stanislaw Lem

国書刊行会 2007-01



鳥原隆志『インバスケット思考』