思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『戦争は女の顔をしていない』
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著/三浦みどり
☆☆★
岩波現代文庫

ベラルーシの著者が、女たちの戦争(っていうタイトル聞いたことがあるが、何だったっけ?)を膨大なインタビューをしてまとめた(だけの)本。
インタビューは、長いものでも10ページ未満で、短いものでは5、6行しかない。いくら文庫で文字級数が小さいといっても、もう少し取材対象の情報を入れるとか、何とかならなかったものか……。氏名と階級、担当しか書かれていないのだ。
改めて思えば、これは、反戦メッセージとして、紛争地の住民や飢餓難民をずらっとならべる広告と同じ手法と言える。とにかく並列的に数を揃えるのだ。さすがに全員2ページずつ、みたいな乱暴なことをしていないだけましだが。
内容的には、やはり体験者ならではの重みはあるが、客観的な資料や取材による俯瞰的な背景描写がないので、どこまで行ってもミクロの視点から跳躍できないのが難点(これは左翼視観の特徴と言えるかも)。だからというべきか、本書はノーベル文学賞を取っているらしい。だからこそ、64年に出た本が2013年になってようやく翻訳されたのか?
とは言え、制式に女性が前線部隊に従軍する、というのは第二次大戦時にはロシア周辺ならではなので、興味深かった。
ソ連の女性兵士に関する本なんかも読んでみたくなった。


ブラックホーク・ダウン
☆☆☆☆
再見。初見時は、冒頭でいきなりブラックホークが墜落した印象だったが、意外と人物や状況説明描写が多く、遅かった。
とは言え、全体の割合からすると、2割も経たないうちに墜落するのだが……。
本作を一言で言うと『遠すぎた橋』にも通じる撤退戦。いかに情勢不利な敵地から、死傷者と共に生還するか、という物語である。
ただし、帝国陸軍ものなんかと違うのは、無線も充分機能しているし、基地にも近い。なので補給の上で支援・救出部隊も来る、ということだ。
ただし、それ以上にゲリラ的な民兵(的な、というより両者はイコール?)がワラワラと湧いて来る。彼らは鉄砲やマシンガンどころか、重機関銃やらグレネード(発射を確認したら「RPG!」と叫ぶのは、本作で知った)ので、救出は容易ではない。
彼が次々と群がってくる描写はほとんどゾンビと変わらない。いちおう英語を喋るシーンもあるのだが……。
グロというより、様々な威力の違う火器に当たるとどう身体が怪我するのかを描き分けたリアリティが本作の特徴。ゾンビもののシューティングゲームみたいな状況だが、そこがゲームとは大きく違うところ。ただ、見返してみて気がついたが、実はソマリア人側には手足が千切れたり、内臓が飛び出たり、脳味噌が見える描写は皆無。そのへんにポリコレというか、アメリカ政府への反戦メッセージが込められているのかも……。そこがいちおう勧善懲悪的なカタルシスのある『ランボー最後の戦場』とは大きく違うところだ。