思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『ΑΩ』小林泰三
☆☆☆☆★

再読。記憶では『ウルトラマン』をハードSF的に描いたら、グロ満載になった…としか覚えていなかったが、いやはや…!
序盤でじっくり描かれるガの半生は、バクスターやイーガンに匹敵する異生命体のセンス・オブ・ワンダーに溢れている。しかも、ここで手の内がほぼ明かされているにも関わらず、ラストで隼人が受ける感覚が、クラーク『幼年期の終わり』『2001年』に匹敵するビジョンが見えるのが凄い。

山本弘が短編で『サイボーグ009』の加速装置をハードSF的にリアルに描いたが、本作は基本『ウルトラマン』の構図を再現するところから全ての設定、物語が構築されている。エイリアンの設定はもちろん、変身が体組織操作であることや光弾、敢えて言えば科特隊が存在しないこともそうだと言えるだろう。
宗教団体ΑΩについても、黙示録の記述から大量に物語に関係あるところをピックアップし、整合性を持たせているところも素晴らしい。エイリアンと神を結びつけるのは定番の一つにしても、だ。
前半がウルトラマンなら、後半は等身大ヒーローものの雰囲気と、普通とは逆の展開になっているのも面白い。また、それがラストの飛躍的変容の効果を高めているのかもしれない。隼人の肉体が限界だから、ますます変身時間と内容が限られてくる、というところもご都合主義でなくていい。とにかく本作は、ウルトラマンなんかを見て不満だったところ、ツッコミを入れていた点に残らず科学的・SF的回答を与えてくれるのみならず、最初に述べた宇宙的スケールのセンス・オブ・ワンダーまで味わえる。こういう作品は、いかにクラークであっても、終盤までは多少かったるいところもあるのだが、最初から最後まで面白いのだから凄すぎる!
結局最後まで正体は曖昧なままだが、影のエイリアンのほうも膜宇宙論なんかが何気なく駆使されていてかなりハードSFしているので要注意だ。