思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

海外特派員

☆☆★

第二次世界大戦前の39年、アメリカの新聞社のイギリス特派員が、陰謀の現場を目撃する。
平和団体の会長の娘とのロマンスと、陰謀を追う狭間での葛藤と、そして戦争の勃発を阻止できるのか?
どこまで史実に基づくものかよく分からないが、前半はよくあるスパイもの。陰謀に巻き込まれたが、周囲に信じてもらえない、というあたりも定番である。その割に、一目惚れに近い形で重要人物の娘と婚約までしてしまうあたりもご都合主義っぽい。
昔の白黒だと、被写界深度が浅いこともあって、背景が描き割りなのか、スクリーンプロセスなのか判別しづらい、というか、どれも実景じゃないように見えてしまう(^_^;)
クライマックスでは米英の大陸横断航空機をドイツ戦艦から射撃され、墜落する。命からがら救出されるが、最後はイギリスでの放送中に空襲に遭い、どうやら死んでしまった、という『世界大戦争』ばりのラスト。
第二次大戦に至る欧州の歴史を知らないと、楽しめないかも。

ランボー ラスト・ブラッド

☆☆☆★

ランボー 』シリーズは、30年前くらいにテレビで観ていると思うのだが、記憶がなく、『最後の戦場』だけはソフトも持っているくらい好きな映画、というのが私のスタンス。なので、3までの内容については知らない、という前提で書きます(^_^;)
本作は基本的には『最後の戦場』の構成を踏襲していて、大きな違いは、ランボーの私生活が描かれる、ということ。実家に帰ったランボーは親類の叔母とその娘と、家族のような生活を送っていた。その娘がなんやかんやでメキシコの麻薬カルテルに捕まって、シャブ漬けにされ、救出するものの、死んでしまう。
その復讐に行って、カルテルのボス兄弟のうち、弟は殺すが、そのまま自分のところへ来るように仕向けて帰ってしまう。自宅を『ハロウィン(2018)』よろしく、トラップだらけの要塞のようにして、彼らを撃滅する。
メキシコに乗り込んでカルテルを全滅させる、というのが普通の映画の構成だと思うのだが、なぜそうしなかったのか?

ワールドエンド

☆☆☆☆

細部までピッキピキにピントが合った(ように感じる)シャープな映像が魅力の、近年のロシア映画だが、本作は、映像だけでいうと、そこまでのものではなかった。
テーマも、最近のロシア映画にちょくちょくある、侵略SF。
まず、ロシアのモスクワ付近のにょうど円形の数十(数百?)キロ圏内の除く、全世界が音信不通、ブラックアウトする。これが英語タイトルが『blackout』である所以だ。
圏内のロシア軍は、周囲に威力偵察部隊を送るが、ことごとく全滅、あるいは壊滅的被害を受けて、すぐに基地に戻ってくる。
主人公の部隊は、無数のクマの襲撃を受ける。
果たして敵の正体は……?
映像もストーリーも最上級とは言い難いが、ある種の戦争/紛争のリアルさ、そこにおける死のあっけなさ、非情さは一見の価値ありかも。必見とまでは言わないが(^^;)
本作でも、ヘリなどの架空兵器から、装甲車や銃器などの現用兵器、犬型のロボットまで色々登場するのがミリオタ的な見どころ。兵器を外国に売り込みたいロシア軍産複合体プロパガンダだろうか?
SF/ミリオタ的には、主人公たちのアーマーが、『武器よさらば』のようなパワードスーツであることに要注目。特に外骨格式の上半身とか。このへんになると、最新装備かSF的なフィクションかわからない。
本佐の見所は、中盤以降に、人間をバタバタと殺しまくるシーン。エイリアンに操られているから、敵なのだが、日本とかハリウッドなら、身近な人なら正気に戻るとか、余地があるものだが、そういうことは、中盤に、助けた子供に隊員を殺されたことで、あっさり排除。ゾンビものですら特殊メイクで人間ではない感じにしているのに、本作では普通の人間を容赦なく乱射している。ここまでの大量殺戮は、『ワールドウォーZ』か、戦争映画じゃないとお目にかかれない。うがった見方をすれば、ソ連共産党の人民虐殺とか、内戦のメタファーなのかも。そう真面目に考えると恐ろしいが、まあスプラッター映画のノリで見れば、遠慮なくバタバタなぎ倒してゆく描写は、ある種、痛快ではある。見方も徐々にやられていくのがリアルだし。

以下、ネタバレ

エイリアンのデザインは、顔の鼻頭から下が、顎まで細長い鼻の穴。コピーする時に下に動かした、みたいなへんなデザイン。
でも、『エイリアン・コヴェナント』の人類の造物主にあたる位置にいるので、ヒトにそっくりでもおかしくはない。
デザインで言えば、エイリアンの宇宙船はボロボロの種みたいな形状で、SF映画史上に残る地味さ。『デューン砂の惑星』といい勝負かも。入り口周辺の、角柱がスライドして開くようなあたりは面白いが。内部はこれまた『エイリアン』シリーズのオマージュ。
酸素入りの液体を漏らすと速攻で死ぬあたりは時間の節約か(^_^;) ところが子供が冷凍睡眠されているエリアになると、途端にためらうようになり、ラストは子供エイリアンが大量に目覚めて終わり。「それでどうなるの?」というぶつ切り感だ。『スカイライン 制圧』を上回る唐突さで、この後、彼らに侵略されて人類滅亡、とも、心変わりしてやっぱりエイリアンをぶち殺しました、とも取れる余韻。

三体2(上)

☆☆☆☆

これまでのは導入で、ようやく本編、という感じ。400年後に襲来する三体艦隊への対抗策が、国連を中心にした、全世界レベルで行われてゆく。中国SFとしての特徴は、中国独自に宇宙戦艦を作ることと、4人の面壁者のうち、キーとなる1人が中国人であることくらいになる。
面壁者という設定が面白く、智子という、コンピュータを占拠できる三体からの情報兵器により、人類の電子情報が筒抜けになる事態に加え、三体人は、思考が読めず、嘘もつけないため、対抗作戦を立案する人物は、外面に一切、思考を表してはならない、また、言動は常に裏があると他者には捉えられる。これが全世界的に周知させられる。これ、どこかで観たと思ったら、『忠臣蔵』で討ち入りの意思を吉良方に悟られないように山城で遊び惚ける大石内蔵助そのものじゃないか(^^;)
あとは、核兵器は、真空の宇宙では、衝撃波が発生しないからほぼ無力だとか、という科学トリビアも面白い。

ヴァイレット・エヴァーガーデン 特別編集版

☆☆★

テレビシリーズは7話あたりから観たが、イマイチだった。改めて観たら、評価が変わるかな……と思った。世間の評価が高すぎるから。
でも、やっぱり同じだった。
まず、作画のクオリティについては言うことなし。完全に映画レベルで、これがテレビシリーズで制作されたことに驚異である。
あとは、良し悪しを箇条書きに。
ヴァイレットの名前は、少佐がつけたことが分かったが、瞳の色とか、着ていた服にちなんだものではなく、たまたま近くに咲いていた(目についた)すみれの花から、って、テキトーすぎ。そんなのに愛着を抱くヴァイレットって、悲しいね……というとこまで含んだ設定なのか?
ヴァイレットが14歳ってホント? 少佐に拾われた時にそれくらいで、代書屋になった時は二十代半ばにしか見えない。リアル志向じゃないとはいえ、キャラデザインの欠陥じゃないか?(いや、キャラデザインそのものは大好きだけど、年齢設定的に)
アフリカなどの貧困国で問題になっている少年兵問題を、無自覚に描きすぎ。まあ、このへんは『鉄血のオルフェンズ』とかも一緒だが、日本アニメの良くも悪くも伝統だけど。
ヴァイレットが、朴念仁だったのに、作家のクライアントに説教するまでになるのは飛躍しすぎかと思ったけど、テレビシリーズでは、その間に数話あったらしいので、これは酷な話か。
作品の構造的に、ヴァイレットの成長と、クライアント(精神医学的にクライエントというべきか)の救済をどちらも描こうというのが、そもそもかなり際どいつくりなのだ。普通なら、『花材の人』の裁判官のように、メンターとして完成されている人を主役に配置するものだ。それでもあえて主役の成長を描きたいなら、刑事もので、バディとなる先輩刑事のような人生の先輩が近くにいるもの。ところが、本作ではヴァイレットの師である少佐は過去に死んでいるし、現在の庇護者である

ひとまず、信じない

押井守
☆☆☆☆
中公新書ラクレ

2017年刊行。人生論というか、生き方エッセイ。
タイトルの直接の意味は、ネットの情報(マスコミと拡大解釈してもいいかもしれない)は、とりあえず信じない。ネットで調べる価値があるのは、それに関する書籍の題名調べることくらい、というもの。

これは読書したい本のメモ
「サド公爵は著作『悪徳の栄え』で有名だが、実はこの作品には対をなすもうひとつの物語がある。(略)『美徳の不幸』だ(または『ジュスティーヌあるいは美徳の不幸』『新ジュスティーヌ』といった改作がある)」

バイロケーション

法条遥
☆☆☆☆
角川ホラー文庫

いわゆるドッペルゲンガーとは違うらしい、本作のバイロケーションの設定は、独自のものかと思ったが、巻末にあるホラー大賞選考評によると、用語じたいは既存のものらしい。
ドッペルゲンガーのように単に目の前に現れるだけではなく、他人と会話もできるし、買い物をすることもできるが、一定時間経つと消えてしまう。ミステリSFてまあるデイヴィット・ブリンの『ゴーレム』に近い設定だが、毎回、発生した時点の記憶を持っている、という意味では、『パーマン』のコピーロボットにより近いかも。
そのバイロケーションにより、画家志望の新婚さんである主人公がトラブルに巻き込まれ、ある金持ちが作った「被害者の会」に招かれ、バイロケーションによる悲劇と向き合う。
とりあえず、作中でもバイロケーションの出現のタイミングや場所、消失のタイミングも不定期なので、ミステリSFとしての謎解きの面白さがないのが残念なところ。
まあ、本作はあくまでもホラーなのでそこはないものねだりかもしれないが……。
ラストには、やっぱりそう来るよな、と予想して、手がかりを探していたオチもあり、そのへんが本作を評価する人が多い理由なのか。
少なくとも、ホラーとしては充分なオチと言える。