思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

ガールズ&パンツァー劇場版』
☆☆☆☆

テレビシリーズは再放送でさらっと見たが、当時はあまりのリアリティのない設定に白けてしまった。
ところが、劇場版のあまりの評判の高さ(特に模型業界)に、ブルーレイを買ってしまった。DVDでも通常版でもなく、特典ディスクつきにしたのは、ミリタリー監修スタッフによるオーディオコメンタリーが聴きたかったから。
冒頭、いきなり始まっているエキシビションマッチは、これ自体で十分劇場版のネタになりそうな、ドリームチームによる紅白戦である。ドラマ性を抜きにすれば、ここ単独でも十分なクオリティ。一見、良く分からないが、何時か見て、コメンタリーを聴いていると、履帯の芝居や車体の挙動、サスペンスの構造そして車体ごとの特徴を表現した演技など、1カットごとに徹底的に情報が詰め込まれていることが分かる。
リアリティという点では、流れ弾による被害など市街戦の周囲への影響も凄い。与えた被害は、戦車道連盟が保証するらしいが、「そんなアホな」という設定に加え、実弾が飛び交い、しかも遠慮なく車体を狙い、おまけに戦闘中もハッチから身体を出している。劇場版を一度見た段階(コメンタリーを聴く前)で気がついたのだが、このバトルシーン(戦車道)は『プラモ狂四郎』のプラモシミュレーションなのだ。そう捉えれば、上記の矛盾点はすべて解消するではないか(^_^;)オーディオコメンタリーで気づいた、戦車が戦闘直後に被害が再生している問題もだ。シミュレーションだから、周辺の被害は物理的に正確に発生するが、人命については考慮しなくていい。そうでないと、カールの六十センチ砲(本編でもコメンタリーでも触れられないが、戦艦大和の主砲より遥かにデカい!)なんて持ち出せない。白旗が色んなところから出る問題(どう転ぶか分からないので、何ヶ所も必要な収納スペースやそのための機構)も解決だ。
先にドラマ性と書いたが、今回のドラマの主軸となる「テレビシリーズの約束はウソでした」展開は、連載マンガの悪例のような展開。でもまあ、本作においては、ストーリーはあってないようなものだがら目をつぶろう。恐らくこの割り切りができるかどうかが、本作を絶賛する人と、受け付けない人の分かれ目であろう。
各キャラについては類型的かつテキトー。まあ、『ヘタリア』的というか……。監督がコメンタリーで語っているが、そもそも日本人か各国人かも分からない。テレビシリーズだけ見ると、外人かと思っていたが、どうも違うようだ。劇場版ではカチューシャがロシア語が分からないとか。
大学選抜メンバーに関しては、せめて映画『逆境ナイン』の日の出商くらいには実態を見せて欲しかった。試合開始前の横並びで、恐ろしげに全員の顔をパンする、くらいはあってしかるべき。余りにも敵の存在感がなさすぎる。全体的に、いちおう試合前の戦略はあっても、スタートすると、戦術的なものしか見えないのだ。戦略を組み替える、という描写が欲しかったところ(『沈黙の艦隊』のような)。
カール攻略戦は、結果的だが、二段構えなのが良い。ミリタリーコメンタリーではっきりしたが、ここで明らかにリアリティのレベルが下がって、フィクション度が上がっているのが分かる。これは前半がリアリティ重視なので、映画としての盛り上がり、ケレン味を出す意味では正解。
ラストの一騎打ち(1対2)は、やりすぎな機動もそうだが、何よりも装填が早すぎるのが気になる。そこを見せる意味でも、せめてアリスの乗車メンバーくらいは見せるべきだったろう。
終わりがあっさりしているのも○。エピローグに当たる部分をエンディングに乗せているのも良い。ただし、負けたくせにボコミュージアムを立て直したのはドラマ的にはいただけない。ま、ビジュアル的に楽しいから良いのかもしれない。
宇多丸師匠評で、新キャラも旧キャラも同様にメリハリなく出てくるのが問題とされていたが、私的にはこれは長所だと思う。新キャラも旧キャラも同様に、一瞬の演技からバックボーンを想像できるのが何回も観たくさせる要素になっているからだ。これは戦車の挙動と同じ演出。要するに、キャラもメカも同レベルで並列的に要素を詰め込んでいるのだ。群集シーンでも、細かいカットで全員を見せる場面でも、同様に個性豊かな作画をしているからこそ、そんな楽しみ方ができるのだ。
ほとんどひとことしかセリフがないようなキャラにも、ファンがいるし、そのひとことにもそのキャラらしさがちゃんと垣間見える。
ちなみに、個人的に好きなキャラはクラーラ(雑誌「モデルグラフィックス」で声優ともどもプッシュしていたせいもあるかも)。お気に入りの戦車はセンチュリオン。好きなシーンは、大学選抜との序盤、森林戦。
とにかく、履帯を始め、戦車の動きを見ているだけで快感が得られるという点で、希有な映画。そもそも、戦車がノロノロ走るのではなく、腹を見せながらダイナミックに障害物を乗り越える映像が続出する、それもマンガ的なウソではなく、ありそうな説得力を保持しつつ(そもそも、戦車の本領を見たことある人はほとんどいないだろうから、私も含めてそれがどこまでリアルかどうかなんて分からないのだ。でも、恐らくここまではリアルで、ここからはアニメ的なウソ、というのがなんとなく分かる)、という楽しさを提示しただけでも映画(アニメ)史に残るだろう。
そもそも、こと日本のアニメでは、CGで重力および重量感を出すのは苦手とされてきたのに、それがここまで来たか……と感慨もひとしお。