思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

屍者の帝国
☆☆☆★

何よりもあとがきが必要な作品だと思うのだが、「プロローグを伊藤、その後は全て円城が書きました」という編集の注釈があるだけ。まあ、プロットのノートや説明くらいは伊藤氏から受けたのだろうが…。

19世紀初頭イギリスが主な舞台で、ヴァン・ヘルシングだのダーウィンだの、実在虚構取り混ぜて超有名人が続々登場するということで、映画『リーグ・オブ・レジェンド』が真っ先に思い浮かんだのだが、『魔界転生』『ROD』とかブリンのゴーレムもの『』など、いろいろ似たような作品が脳裏に出てくる。そもそもパンチカードを使ってるくせにインストールとか、技術的に19世紀初頭にするのは無理がありすぎる。感覚的には22世紀が舞台となっていても何の違和感もない。19世紀が舞台なのは、フランケンシュタインのメアリー・シェリーとかを出したかっただけとしか思えない。屍者がいなくなったことで現在の歴史につながるわけでもないし。
でも、結局一周回ってただのゾンビものやん?!という気もする。クライマックスにノーチラス号で頭の衝角で突っ込んで、青い宝石を使うあたりは『ふしぎの海のナディア』?
前後にある矛盾する記述の指摘など、聖書へのツッコミは面白いし、ゾンビの原理と生命における不死と進化の関係、それと菌が意識を操っている、魂の重さが21グラム説(これは知ってたけど、改めた本を読んでみるかな…)など、興味深い要素も多いのに、まとめかたを間違った気がする。菌株がすべての生命の王である、というラストに向けて収束させればそれなりにSFとして満足な読後感になったと思うのに…。