『空白の叫び(下)』
☆☆☆☆
下巻は自ら額を割った葛城のその後を描くことなく、いきなり出所(出院)後に。
少年院から出た少年たちに身内および世間はどう接するのか、を描いたのが下巻。
嫌がらせから、職場を追われる工藤から、結果的に少年院時代の知り合いたちで銀行強盗をすることに。このへんは『愚行録』または『悪党たちは千里を走る』を思わせる。作者的にネタ切れ、あるいは行き当たりばったりに書いてたんじゃないの?と思われたが、そうではなかった。
三人が関係する理由も面白い。「おれたちは互いに、自分を憎んでいるという点が共通しているからこうして言葉を交わすことができるんだ。」
以下ネタバレ
銀行強盗を成功させた久藤の前に現れたのは増田、そして柏木の父だった。少年院で監督官柴田の指揮で久藤に嫌がらせをしたのは柏木の父の意図だった。ここで、彼が黒幕である、というミステリーの構図が浮かんだが、本作はそんな単純なものじゃなかった。
「マスコミとは、世間とは、こんなにも的外れで理不尽なもの」
というのを描くのが本作の主題。もうひとつは、人間の心の弱さ、強さとは何か、というものだろう。
「久藤と柏木は愛し合っていたのではない。互いに憎んでいたのだ。」
このあたりは連城三紀彦っぽい。
ある種、物語の出発点が久藤と柏木の痴情のもつれ殺人である。
葛城と神原は血縁関係がある。
久藤は一見不良だが、元いじめられっこという過去。葛城は金も容姿も知性も備えた、だが植物のごとき心の平静を求める人物。神原は、一見優しいごく普通の少年だが、心の闇(しょうき)が肥大する、最もアナキン・スカイウォーカー→ダース・ヴェイダーのような怖いキャラだ。
空白の叫び 下 貫井 徳郎 小学館 2006-08-25 |