思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『空白の叫び(上)』
☆☆☆☆

三人の中学生の全く異なる日常がそれぞれ別々に描かれる。接点もない。どこがミステリーなのか、道尾秀介みたいに、純文学なのか…と思いきや、一部のラスト、三人は全く異なる理由で殺人を行う。
そして少年院で出会うことになる。だが、必然的ではなく、この三人の関係に意味があると知っているのは、読者だけであり、登場人物にとっては、ある程度気になる存在ではあるものの、大勢の中のひとりにすぎない。
序盤は、花村萬月とは言わないまでも、柳美里『ゴールドラッシュ』のような少年の暴力衝動を描いた小説。少年院編の第2部は、院内のいじめや監督官の裏表などの実態を描くノワール。果たしてこの物語はどういう結末を迎えるのか。タイトルからして、やり場のない鬱屈、現実への絶望で幕切れになるのかな??

「いかにも作り話だと、葛城はいつも思う。本当に頭のいい人間ならば、己のことを客観視する能力も、他人に与える影響力を計算する頭脳も持っているはずだ。それなのに虚構の“天才”は、なぜかその点だけはすっぽりと欠け落ちている。あらゆる面で恵まれている代わりに、性格だけは悪いというステレオタイプが虚構の世界には横行している。おそらくそれは、作り手側の能力不足や怠慢ではないのだろうと、葛城は考える。物語の受け手である一般大衆が、そうした悪人像を望んでいるのだ。」
本作はこういうステレオタイプへの挑戦という趣旨の(アンチ大衆小説)純文学またはミステリーなのだろう。
なんにせよ、上巻だけで一段組みとはいえ、五百ページ以上あるのだ。


『空白の叫び(上)』
☆☆☆☆

三人の中学生の全く異なる日常がそれぞれ別々に描かれる。接点もない。どこがミステリーなのか、道尾秀介みたいに、純文学なのか…と思いきや、一部のラスト、三人は全く異なる理由で殺人を行う。
そして少年院で出会うことになる。だが、必然的ではなく、この三人の関係に意味があると知っているのは、読者だけであり、登場人物にとっては、ある程度気になる存在ではあるものの、大勢の中のひとりにすぎない。
序盤は、花村萬月とは言わないまでも、柳美里『ゴールドラッシュ』のような少年の暴力衝動を描いた小説。少年院編の第2部は、院内のいじめや監督官の裏表などの実態を描くノワール。果たしてこの物語はどういう結末を迎えるのか。タイトルからして、やり場のない鬱屈、現実への絶望で幕切れになるのかな??

「いかにも作り話だと、葛城はいつも思う。本当に頭のいい人間ならば、己のことを客観視する能力も、他人に与える影響力を計算する頭脳も持っているはずだ。それなのに虚構の“天才”は、なぜかその点だけはすっぽりと欠け落ちている。あらゆる面で恵まれている代わりに、性格だけは悪いというステレオタイプが虚構の世界には横行している。おそらくそれは、作り手側の能力不足や怠慢ではないのだろうと、葛城は考える。物語の受け手である一般大衆が、そうした悪人像を望んでいるのだ。」
本作はこういうステレオタイプへの挑戦という趣旨の(アンチ大衆小説)純文学またはミステリーなのだろう。

空白の叫び 上空白の叫び 上
貫井 徳郎

小学館 2006-08-25