思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『アケルダマ』
☆☆☆★

解説にあるように、作者の『蝿の王』以来の伝奇大作。ジュヴナイルということだが、主人公が女子高生という以外に、内容的な手加減は感じられない(カバーは明らかにジュヴナイルのそれだが)。
イエス・キリストの復活というネタゆえ、オリジナリティとしては弱いのが難点(ここがジュヴナイルとして敢えてわかりやすくしたポイント?)。高橋克彦小林泰三梅原克文など、似たような作品が色々浮かぶ。
もちろん、『竹内文書』や、ユダの正体など、本作ならではの解釈、独自色はない訳ではないのだが……。
作者の伝奇ものの例に漏れず、本作も読みやすい。700ページもあるが、2日かからずに読めた。
カチャーシー(しばらくカチューシャだと誤読してたけど)拳の使い手でインチキ占い師をしている主人公の母親が、馬子に見えて仕方なかった(こちらは沖縄人だが)。

ちなみに、調べたらカチャーシー拳(要するにカポエラみたいなもん?)は作者の創作だが、カチャーシーと云う踊りは実在するらしい。

アケルダマ (新潮文庫)アケルダマ (新潮文庫)
田中 啓文

新潮社 2015-10-28

是枝版『四姉妹物語』? というよりも、いわゆる日常系の映画はほとんど見ない私が連想したのが『東京物語』などの小津安二郎映画だった。鎌倉の一軒家に三姉妹の子供だけで住んでいたところに、出て行った父親が作った腹違いの末娘と、その父が死んだことがきっかけで一緒に住むことになる。
その四姉妹の鎌倉での日常生活を淡々と描くのだが、これが退屈しないのだ。
特に冒頭の10分くらいで思ったのが、ほとんど宮崎アニメ『となりのトトロ』や細田守アニメかと思わせるような脚本だ。敢えてそうしているのか、無意識に影響を受けているのか、はたまた良作というのは得てして似たものがあるだけなのか……。
堅物で、典型的な長女の綾瀬はるか。「幸姉(さちねえ)」と呼ばれているが、家族からは時として「シャチねえ」とあだ名される。もちろん名前からの連想だが、綾瀬はるかの尖った顎からイメージしたものだとすると、脚本的には大正解なのだが、プロデューサー的には悪意を感じる(^_^;)ネーミングだ。興行的には主役というより、看板役。
次女の佳乃は長澤まさみが演じる。最も演出が光るのがこの役だ。どちらかといえば清楚なイメージの役が多かった感じがする彼女だが、本作では、自堕落とまではいかないものの、『らんま』の次女かすみのような感じで、酒と男にすぐ負ける今時の女性を好演している。
三女千佳は、地味ながら、本作を支えるバイプレイヤー。中性的というか、決して美人ではないが、男でも友達になれそうなタイプ。作中でも、アフロのミュージシャン(演じるすっとぼけた役柄のスポーツ店の店長)とコメディリリーフ的な役割を担当している。
末娘すず。役名と役者名が同じなのは狙ったのか当て書きなのかどっちだろう?純粋で、次第に姉たちとの生活に溶け込んで行く設定なので、実質的に新人のお披露目的なスタンス。演技らしい演技も不要だし。
出てくる俳優はすべて巧みに演出されていたのだが、唯一、ダメだったのが彼女たちを置いて出て行った母親。大竹しのぶが演じるのだが、個人的に嫌いだから嫌な女に感じるのか、半分以上そう見えるように演出されていたからなのか、よくわからない。
ラストは、唐突に(テレビだからターミナルケアのシーンはカットされた?)馴染みの食堂のおばちゃんが亡くなった葬式の後の場面に。結局は嫌っていた父親を肯定するところで終わるのは、ちょっと綺麗事すぎるが、まあ映画としては美しく終わっている。どうしようもないのかもしれないが、浜辺で3人(すずは制服なので)が喪服姿で歩いているのだが、どいつもこいつも足が細すぎるのが違和感あった。日本人の喪服姿は、もうちょっと足が大根っぽい方が(少なくとも映画的には)情感があるんだが……。
音楽は菅野よう子だったのか……。ピアノの地味な曲が作品に合ってはいたが。

海街diary Blu-rayスタンダード・エディション海街diary Blu-rayスタンダード・エディション

ポニーキャニオン 2015-12-16