思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『渇きの海』
☆☆☆☆★

再々読。
原題の直訳は『月の塵への落下』だから、翻訳者または出版社の国語/邦題センスにまずは感服。
本作はそのまま極上の遭難救出もの映画になるくらい、次々に問題が起こっては、科学と技術で解決するサスペンスだ。まさに月面の『アポロ13』である。ま、唯一の問題点は、多くの文系視聴者向けに科学的な解説をセリフやナレーションで入れてしまうと、物語の流れを削ぐ点くらいか。

本作がすごいのは、ケネディの月面着陸宣言が出る61年に書かれているにも関わらず、現在読んでも全く古びていないどころか、新鮮ですらある。
次々の起こる困難を解決していくミステリー、サスペンス的な面白さ(細かいツイストの連続と捉えれば)も抜群。
小説家は見てきたような嘘をつく、と言われるが、渇きの海をスクリューで推進すると、航跡が静電気で微かに光る、というような描写を、(科学的・演繹的に導き出したにも関わらず)経験的にさらりと描写できるところだ。
クラークの技術系SFでは『楽園の泉』を上回る娯楽性と科学技術性を兼ね備えた傑作。


『ブラックマジック』
☆☆☆

いわゆる魔法のある近未来SFミリタリーアクション。過去の金星が舞台のようだが、作者の未来史の整合性はどうでもいい(『アップルシード』と『攻殻機動隊』とか)。
連作短編集で魔法メインのエピソードと、アンドロイドメインのエピソードが交互にある。アンドロイドメインの内のひとつが、魔法成分を除去してOVAにされている。
アンドロイドのほうは、稼動による熱をさますとか、緻密な設定に読みどころ十分なのだが、魔法のほうは凡庸。特に後に同じ作者による傑作『オリオン』が完成されたのを先に読んでしまっては、その点で本作を読む意味はない。
ちなみに、タイトルが手書きなのが、いかにも同人誌的である(^_^;)