思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

カムナビ(下)』
☆☆☆☆★

下巻だけでも普通の小説3冊ぶんくらいの大ボリューム。
志津夫たちだけでなく、気象庁など、様々な視点から描かれることで、物語のスケール感がアップしている。映画で言えば『2013』くらいのスペクタクル巨編だ(ま、舞台的には長野と奈良くらいだが)。是非とも映画化して欲しかったところだが、まず間違いなくトンデモ系C級映画になることも予想できる。
カムナビのビジュアルじたいは『星封陣』と似ているが、それにオルドースのパラドックス(知ってたはずなのに、思い出せなかったのが悔しい)とか、太陽系全体を覆う光合成生命体とか、SF的に展開するのが作者らしい。情報伝達(脳にあたる部分の)の光速度限界問題とか、詰めの甘いところもあるが。
カムナビの連射による惨劇とか、スペクタクル描写は、それを気にさせないのに充分。
こういう話、田中啓史なら書けそう。『ミズチ』『蝿の王』とかの路線、もっと書いてほしいなあ…。全体の雰囲気として巨視的な視点は『妖星伝』っぽいところもなくもない。
基本的に真面目な話なのに、カムナビによって髪の毛がアフロになるとか、妙に気の抜けた描写があるのはちょっと気になった。
多数登場する人物たちもしっかり風呂敷が畳まれるのだが、真希だけは消化不良。『ジョジョ』4部のボスと似た決着なだけに、それくらいの主観的な絶望を描写して欲しかった。

「ハリウッド映画だと、発見したばかりの地下遺跡に、主人公の考古学者がいきなり飛び込んでいく場面が出てくる。だけど、そんなことをしたら、本当は酸欠で死ぬんだ。洞窟や地下遺跡は長期間の化学反応によって酸素がなくなってしまい、二酸化炭素が百パーセントという状態になっている」
こういうところも科学的、というよりよく調べてあるなあ…という部分。だからこそ寡作になってしまうのも仕方ないところか…。

気になったのは、断片的に出てくる主人公父子の手記。発表するつもりがないのは、最後まで読めば明らかだから、自分のことは「私」とか書くべきであって、「筆者」とかいうのはおかしい。いつも学術論文を書いている時の癖、という表現なのか??