思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『樹のごときもの歩く』坂口安吾高木彬光
☆☆☆
東洋書院
裏表紙の解説は酷い。結局本作について何も述べてないのだ。乱歩の前書きを読んでいれば誰でも書ける。
本作は顔がわからないくらいの傷痍軍人として復員した安彦を象徴として起こる連続殺人事件。…まんま『犬神家』だよなあ…。
探偵はともかく、警部までが、新たな殺人が起こったから事件の様子が見えて来たとか、人命をなんとも思ってないなど、リアリティは至極薄い。
本書の2/3までが坂口安吾によるもの。(ちゃんと表記してくれているのがありがたい)
高木氏によるあとがきには、未亡人から聞いた、当初のプロットが書かれているが(あとがきから読まないように!)、結果的にこれらは高木氏のパートで全て否定される(ダミーの解決/推理)として完成した。
高木氏は安吾が完成させたらド本格の傑作になった、と謙遜しているが、このプロットだと、到底そうは思えないけどなぁ…。(「樹のごときもの」の解釈を見ればそのレベルの差は瞭然)
『不連続殺人事件』へのオマージュを盛り込んだ高木氏の職人技が光る。

樹のごときもの歩く樹のごときもの歩く
坂口 安吾 高木 彬光

東洋書院 2006-12-16