思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『「坂の上の雲」では分からない日露戦争陸戦』
☆☆☆★

要するに『坂の上の雲』では児玉源太郎や参謀たちの作戦のおかげで勝利できたように書かれていたことは全て逆である、という内容。改めて言われてみればなんてことはない、大東亜戦争のころと同じ状況である。
ただし、児玉源太郎は政治家としてはなかなか有能であったと評価されていることは忘れずに付け加えておかなければなるまい。
小村寿太郎日英同盟を最終的に決断したのは、イギリスが過去に条約破りをしなかったことを調べたからであった。逆に、ロシアは協商や条約を(アジア諸国に対してだけは)平気で破ることを(略)見抜いていたに違いない。」
「戦時において交戦国軍艦はいかなる民間船舶をも臨検でき(略)抵抗があれば撃沈しても構わない。(略)さらにこの戦争行為によって損害を受けた民間人は交戦各国と母国にいかなる損害賠償も請求できない。(略)民間人は戦場に近づいてはならないのである。」
「25万人の大軍を動かす作戦計画策案は参謀に頼るしかなかった。
 作戦計画とは中隊にいたるまでの作戦全期間にわたる位置を予想し、そこへの兵站と作戦命令をつくるという膨大な作業であって、かつての馬上指揮をとるといったやり方は近代戦において不可能である。」なかでも兵站については、なまじっかな戦争シミュレーションゲームでも考慮されていない要素で、盲点かも(煩雑で難易度が上がるからだろうが)。
「龍岩浦事件(引用者注:別の箇所から引用「龍岩浦に河川港を築き、その周囲を砲台で取り囲み海軍基地にしようとした」)は、西ローゼン協定に違反するロシアの侵略行為であった(引用者注:別のところから引用「当時の国際法では、「挑発行為は先制攻撃と等価とみなされ、「軍事基地設営」「港湾封鎖」「二国間条約違反」「債務不履行」などが該当するとされた。」」)。(略)戦争を始めたのはロシアなのである。」
「遼陽会戦と奉天会戦の間(略)東京・大阪砲兵工廠は(略)奉天会戦一回の需要すら満たすことができなかった。だが、奉天会戦が終了した4月末(略)砲弾も定数に対して43万発の予備を保有した。兵装における不足は初めて解消されたのであった。」これもさんざん弾薬不足が強調されていたので、日露戦争終戦までそうだったと思いがち。
「日本の参謀とは計画をつくる専門家であり、戦敗の責めを問われることはない。外国においても軍律で参謀が裁かれることはない。ただし、司令官によって革職されることは日常茶飯事である。日本の参謀は天皇の官吏であって身分が守られていた。(略)そのうえ参謀は戦後になって戦史そのものを書いて(略)刊行する利権をもっている。(略)参謀たちはつくった作戦計画を自画自賛し、失敗を将兵に帰する。」