思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『聖女の島』
☆☆☆★

ネタバレせずに紹介するのは難しいが、孤島に設けられた女子の矯正施設での出来事を描く広義のミステリー/幻想小説
トリッキーなホラーとして読むほうが、最もがっかり感が少ない撮り組み方かもしれない。私は本格ミステリだと思って伏線を探したので、半ば憤りを覚える落ちであった。
『女郎グモの理』とか、綾辻ホラーが本作の要素の一部をリスペクトして書かれているかも。

追記版『首都消失(下)』
☆☆☆☆

突然首都圏と音信不通になったらどうなるか、というポリティカル・フィクションは、遅々としてというべきか、地道にしか進展しない。福井晴敏なら、同じボリュームであと2巻は書くであろう。
科学的な分析もじっくり描かれてはいるが、少し進んだと思ったら、また別の話題に変わってしまう。
本作においては、科学、軍事、外交、経済、政治が当分くらいの割合で描かれる為、大部になる、というより展開が遅いのだ。
ラストにはかわぐちかいじばりにソ連の侵攻が描かれるので、それこそどうやって終わるのかと不安になっていると、元寇ばりのあっさりした幕切れ。
ほとんど全ての風呂敷は広げっぱなしかと思いきや、科学的、SF的には唐突に畳んでしまう。確かに、SFとしては十分面白いアイデアである。ただ、小説作品としては、他の要素が多すぎて、持て余し気味。中でも、首都の内部に一切触れていないのが気になる。最後に明かされる設定からすると、内部は文字通り消失、消滅しているだろうから、「ないもの」として描くのは妥当なのだが…。
やはり、最大の問題は、外部の状況をぶつ切りで終わったことだろう。まるで『太陽の帝国』『沈黙の艦隊』を最初の四巻だけ読んだかのよう。
保守/右翼としては、首都消失によって皇室がどうなったかをスルーしていることが気になる。天皇が出てくるのはたった一ヶ所、大臣の任命権について触れた点だけだ。
本作でずるいのは、首都直下地震などで皇室が全滅したなら、旧宮家などを探すだろうが、内部は生死不明そしていつか霧が晴れるという望みを残すことで、根本的な対策を取らないことだ。
ただし、政治面では、暫定の行政組織に全国知事会を使う、というアイデアは面白い。