思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『夏草の賦(下)』読了

風雲児たち』では、触れられていただけで具体的には描かれなかった
(過去の話だから当然だけど)
秀吉の「四国征伐」と「九州(島津)征伐」が少し描かれていたので満足。
本作は、要するに戦国時代、夢半ばにして破れ、
なおかつ死亡しなかった男を描いた作品だ。
今川、武田、上杉、斉藤、信長など、たいていは死んでいるのだが、
長宗我部元親は、部下の命を守るため、敢えて秀吉に屈した人物。
徹底的に媚びを売るというところがこれまた英雄なのかもしれない。
ただ、九州征伐のコマとして使われて、優秀な長男を失って以降は
生ける屍のごとくなってしまった。
結局は田舎に生まれた英雄の悲劇、ということらしい。

豆知識。梅毒について。
「感染は婦人との接触による(略)。元親の同時代の大名たちの多くが、これにかかっていた。加藤清正黒田如水結城秀康らは明白な患者であり、秀康は鼻が欠け、如水は頭髪が抜け落ちていた。それほど顕著な病痕をとどめぬ者でも子がすくないのはこの病気によるものであろう。
 この病気に対し、明確な意識で用心していたのは、医術好きの徳川家康ぐらいのものであろう。かれは戦場にあっても遊女は近づけず、このためどの戦場でも自分の側室を数人連れて行っていた。家康はその用心のせいか、子が多い。」
梅毒の訪日については山田風太郎の『スピロヘータ氏来朝記』なんていう短編もある。

九州征伐先鋒にかり出された仙石権兵衛に指揮された長宗我部元親十河存保の部隊。
「一戦場で、主将以下700人がことごとく戦死するという例は、日本の戦史のなかで絶無であり、このすさまじさには敵の薩軍のほうが胆をひやし、舌をふるって感嘆した。」
長宗我部信親の最期である。