思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

マーターズ

☆☆☆☆

トンデモ胸糞ホラー映画と聞いていたので、一度は観てみねばなるまい。このためだけ(もちろん、これからも利用するんだけど)にレンタルショップ•GEOに入会した(^^;)
さすがにまともに観ると、精神的にキツいと思ったので、レンタルなのに入れてくれててありがたかったオーディオ•コメンタリーで初回から鑑賞。外国語(本作はフランス映画なのでフランス語)映画かつ、コメンタリーが日本人(日本の配給プロデューサーほか)なので、それが可能であった。結果的には大正解。映画の撮影秘話や設定などとは関係ない、ホラー全般の駄話が半分近くあり、気を紛らわせてくれる。ヒロインが明るく日本に宣伝にやってきたエピソードなどは、ホッとさせるものだ。
ちなみに、マーターズは原題で、殺人者のフランス訛りとかではなく、殉教者というれっきとした英語(仏語?)であるらしい。
結論からすると、前半の一家惨殺は、主人公の復讐だから、全然胸糞じゃない。が、後半の監禁は直視するとしんどい。ただし、ネタバレでいう救いはあった。それよりも、作中に出てきた他の監禁者は短かったのに、主人公だけ、鎖が壁から中央の椅子に座れるだけの長さがあったのは訝しんだ。あんなに長かったら、鎖で首を締めて自殺できるやん。
ネタバレなしで言えば、グロに耐性のあるSFファンは観といて損はないかも。

以下ネタバレ

ハリウッドとかにありがちな、または『呪怨』の伽倻子的な女モンスターかと思いきや主人公の妄想で、自傷してるだけというオチは前半の山場で、そこからの主人公の死亡という、まるで日本の某秀作ホラー映画のような2部構成(あっちは3部構成だけど)には驚いた。
前半は、まだ過激な表現のある内外の心霊ホラー映画の範疇に収まるもの。本作の真髄は後半にこそある。
後半の主人公である黒髪のほうの女の子を心身共に徹底的に追い込んでゆく。また、忘れてはならないのが、後半に入る前に、地下の廊下に飾ってある写真群だ。これ、本作のための作り物じゃなくて、歴史的資料だよねぇ……? 拷問や病気などで、瀕死の人々の顔を撮った写真。これらは、本物(にしか見えない)だけに、強烈なインパクトで、胸を抉る。(一見すると死体に見えるのだが、この後に瀕死なだけであると作中で語られる)
本作が凄いのは、拉致した人間たちを虐待する目的だ。『ホステル』に代表されるように、単なる加虐趣味ではないのだ。もちろん、ジェイソン的な怪物によるものでもない。心身(共になのか、それぞれなのか、も分からないので、さまざまなパターンを試す必要があったのだろう)を死の直前まで追い込まれた人間が見るビジョンを知るためなのだ。作中にあるように、宗教的な動機であり、また『ターミナル•エクスペリメント』のような、SF的な人間を超越した、あるいは普通では体験できない世界を描くものでもある。もちろん、それを直接我々に見せてくれない、という意味では名作『2001年』や『ターミナル•エクスペリメント』も同様で、見せないことで想像させる手法だ。
また、宗教的動機ゆえに、死活問題でもある、というカルト的な納得感もある。
もちろん、「そんなの自分の身体でやれ! 無辜の他人を虐待するな!」は大前提で、だからこそホラー映画になるのだが。自分に対してやるなら、たんなるヨガの修行だからね(^^;)
虐待のとどめとして、顔以外の全身の皮膚を剥がされるというのは強烈にグロいはずの場面だが、その過程は描かず、筋肉ペイントの全身タイツみたいな感じで、あんまりグロくない。逆に、ここはもうちょっとリアルにしたほうが良かったんじゃない? ドラマ的にはクライマックスでしょ?
主人公から、「見たもの」を聞いた、組織のボスであるマダムが、自殺するラスト、というのも皮肉というく、ブラックユーモアというか、ある種の真理なのか。他人からは恍惚に見えても、視覚と触覚と思考が分離しているのか……。
単なる因果応報でマダムを殺したのではない、ということだけは言える。もしそうから、救いにきた第三者や、警察に射殺される展開でもいいわけだしね。
ラストシークエンスでの飛躍は『ルーシー』に近いものを感じた。