思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

ハケンアニメ』☆☆☆★

面白い要素は多いが、全体的にはブレーキになる(ひっかかる)要素も頻繁に出てきたので、イマイチ乗り切れなかった。
全体の設定も、展開も映画『バクマン。』と大体同じ。「お仕事もの」である。
アニメ業界を俯瞰する、という意味では細かいスタッフのクレジットが出たり、しっかりコンテ撮でアフレコしたりと、妙にリアルなところもある。なんと言ってもその集大成が、2作品あるテレビシリーズのアニメをトップクリエイター達に発注していて、その映像クオリティが非常に高いこと。
俳優陣の演技やシーン単位の演出もよくできている。ラストシーンでも、セリフなしで、横顔や背中で語るところでは、思わず感動してしまった。ただし、その前提となる展開には物言いがあるんだけど(´д`)
一言で言えば、熱血お仕事映画。夢(または原点)という名のやる気があれば、なんでもできる、というお話だ。
当然、山場となるピンチも何度かあるが、原点を確認するだけで自然と周りの人間が協力してくれる。ライト層には評判が良い、というのもうなづける。どうせ『鬼滅の刃』とか『ワンピース』を見に行くような人たちが絶賛しているんじゃないかねぇ。作中の言葉を借りれば「リア充」系のやつらが。
「おまけの夜」でも言ってたが、社会人として組織の中で仕事をしているような人たちには、現実とのギャップがひっかかって、乗れないと思うんだけど。
ネタバレ以前のツッコミ。制作スタジオ以外の現場が異常にだだっ広い。テレビ局の稟議場は『エヴァ』か『トップをねらえ!』のパロディだろうからまだいいとしても、面接会場の広さはどうなん? 東映アニメーションの面接現場はあの通りだよ、と言われたら一言もないけど。
また、全然場違いの職種からの転職組が、わずか7年でテレビシリーズの監督になるって、それこそ天才じゃないとありえないんじゃない? それが一方的に噛ませ犬として扱われるって・・・。主人公の過去の仕事がまったく不明なのも省略ポイントを間違っている。
土曜5時のテレビアニメを、電車に乗る人がリアルタイムでケータイで見たり、そこら中で話題にしているのもありえない(岡田斗司夫はファンタジー映画だと言ってたが、まあそうだわなぁ。設定はともかく、物語的な現実味は低い)。それこそ主人公が「目に入る人が全て、自分の作品の話をしているように幻聴が・・・」という被害妄想の描写だと思ったくらいだ。

以下ネタバレ

本作は、脚本は悪くないのかもしれないが、構成がおかしい。
たとえば、天才監督は、最終話で主人公を殺そうというアイデアを思いつくが、製作委員会(テレビ局主導)が反対するので、板挟みになったプロデューサーが悩む、という展開がある。普通(以上)のクリエイターなら、物語あるいはテーマから演繹して、一番ありそうなのは、描いているうちにキャラクターが一人歩きして、そうなるしかない、だからラストを変更するしかない、となるはず。逆に、テコ入れとして上からサプライズとして変更しろ、となるべきだろう。
演技が下手なアイドル声優にダメ出しを続けていたが、彼女が聖地巡礼して役作りをしていたのをSNSを後から見て知ったから、ダメ出しをやめた、というのもおかしい。どんな努力をしようが、結果がダメならダメ、というのがクリエイターの常識でしょ?
あとこれは他の感想動画でもあったが、主人公たちのアニメが評判を上げた理由も不明。善意に汲み取るなら、終盤にかけて伏線が回収されていくのに視聴者が気づいたから??
SNSのつぶやきがメタ的に画面に流れていたが、それを生かすならば、ラストは読めないくらい小さくて無数のつぶやきが、夜景の夜空を、流星雨のように流れ飛ぶ、というのが良かったなぁ。