思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

スターリングラード


☆☆☆★

てっきりロシア映画かと思ったら、完全なハリウッド映画。どこか完全なのかと言うと、ロシア対ドイツの映画なのに、全員英語を喋ってるからね。
スターリングラード攻略戦の悲惨さは、冒頭の『プライベート・ライアン』か『1917』か、という揚陸艇群に襲い掛かる爆撃機のシーンと、都市の廃墟のビジュアルだけ。なので、独ソ戦関連の予習をしていると、映画の背景の理解が深まるだろう。
物語としては、小さい時から狩りでのスナイプ技術を鍛えられた主人公だが、徴兵に取られて戦地に送られる際には、2人に一梃しか銃をもらえず、主人公はもらえないほう、というあたりが脚本の匠さ。まあ、仮に持っていたとしてと、揚陸的に襲いかかる急降下爆撃機には、何の役にも立たないのだが。
スターリングラードについてからは、割とすぐに狙撃の才能を発揮し、プロパガンダのために英雄を探していた共産党宣伝部によって、偶像化される。虚像ではなく、それにみあうだけの戦果を挙げていたのではあるが。
レーティングはされていないが、頭や目に弾が当たったところも割としっかり映す。
ソ連のスナイパーによって、将官クラスが次々にやられるもんだから、ドイツ側も凄腕のスナイパーを呼び出して、対決させる。ほんまかいな? 主力部隊なら正面衝突もさせられるだろうが、物陰に潜むスナイパーが相手を見つけられるのか? そもそもそんな意図でエースを配置転換させるか? まあ、そこは映画だし、史実であってもなかっても、どっちでもいいか(^^;)
で、ライバルを演じるのが江戸ハリス。ソ連側は20代の若手なのに、こっちはアラカン?? まあ、渋くて格好いい(今風に言うならイケオジ?)から、観ているだけで充分画面は持つのだが。
これがロシア映画なら、間違いなく江戸ちゃんはやられるが第三者たるアメリカ映画なので、予断を許さないところが面白いところ。いちおう(申し訳適度に?)ポリコレ的に、ソ連の政治将校による共産党批判なんかもちょっと入れてるし。
江戸ちゃんのほうは、予め決めた場所とはいえ、物陰から走ってジャンプする人の頭を狙撃するなど、主人公を上回る超絶技巧の持ち主。主人公とバディを組んだ兵士も次々にやられていく。果たして強大な敵を倒せるのか?
重い『アメリカン・スナイパー』とは違って、普通によくできたエンタメ・戦場バトルものである。

以下ネタバレ

主人公が恋する女性兵士の弟が、江戸ちゃんの小姓みたいなことをやっているのがポイント。敵に情報を与えている裏切り者かと思いきや、ドイツ側の情報をスパイしているようにも見える。江戸ちゃんも、信用しておらず、主人公を誘き出すために、あっさりと少年を殺して廃墟に吊るす、という(冷酷、惨虐というよりは)非情さが江戸ちゃんのプロフェッショナルぶりを表現していて素晴らしい。女子供や動物殺す映画は、甘っちょろい批判を跳ね返すだけのポリシーをもってやっているから、映画全体にも「力」がある。
と、ここまでやってくれたのに、避難する途中で重傷をおった恋人が、生きていて主人公と再会する、というのはご都合主義的だよなぁ。最初はそのまま死んだことにしていたが、試写会で評判悪かったから変更したのかも。