思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

怪談 お岩の亡霊


☆☆☆

まず、音響の問題について言いたい。囁き声が全然聞こえんぞ! 劇場の静かな中で大音量で鳴らせば聞き取れるのかも知れないけど。
設定も、特に最初は分からなかった。
とにかくネタとしては古典中の古典、有名すぎるので、敢えて定番から外しているところもあるだろうし、余計に分からない。そもそも2000年代では、「お岩さん」の話、と言っても、知らない人も多いだろう。もちろん、本作が作られた60年前には、誰でも知ってることだったんだろうから、これは我々の問題。
ただ、少なとも歌舞伎版(オリジナル版)は相当に意識して、それを再現してしている部分があるように感じた。その際たるものが、終盤、お岩の亡霊に正気を失い、祈祷を受けている中で、二人が仲睦まじかった時の踊りを踊るシーンが挿入されることだ。これ、知識ゼロでみれば、爆笑もののトンデモ演出にしか受け取れないだろう。
本作では、冒頭の伊右衛門が熱を上げる女をめぐる三角関係が全然わからなかった。
そういえば、伊右衛門とお岩の間には赤ちゃんがいる(何回か登場する)のだが、その子がどうなったかはスルー(´Д`)
本作は、被害者であるお岩さんに感情移入すると、とても観てられない胸くそ映画。伊右衛門というワルを描いたノワールとして観るしかない。悪いことをした因果応報譚として観るには、ラストの報いは、大立ち回りの末に敵討ちされる、というのは軽すぎて、とても溜飲は下がらないだろう。
お岩の顔を見て醜く爛れ(?)させた毒薬も、京極夏彦版『嗤う伊右衛門』では確か硫酸的なものを顔にかけていた気がするが、本作では、飲み薬を飲んだ数分後に、苦しんだ末に片目の周りが奇形児みたいになる。そんな薬ないやろー(´Д`)
まあそれは映画的なウソとしても、その第一段階の特殊なメイクは、実際にある奇形の症例のようで、リアルだった。片目が下に垂れている感じ。また、その状態で髪を梳かすのを後頭部から写したカットは(顔が見えないから)美しかった。でも、髪がぬけくる悲しいシーンなんだけど。第二形態は、普通の化け物、という感じで凡庸。
話はよくわからなくても、撮影(構図)はやっぱり美しい。白黒時代の東映時代劇はどれもすごいわ。クライマックスの敵討ちのば面とかも、夜で雪景色に白い着物、という難しい状況なのに、輪郭もコントラストも実に美しく撮れている。