思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

熱帯夜

曽根圭介
☆☆☆★
角川ホラー文庫

『熱帯夜』☆☆☆☆
新婚夫婦の別荘に遊びに行ったら、借金取りのヤクザがやってきて……という感じで物語が始まる。そして交通事故のエピソード。タイムリミットサスペンスかと思いきや……。ネタバレなしで書くのが難しいが、平山夢明とか、小林泰三みたいな、意地悪作家の系譜を感じる。途中のレイプシーンがその真骨頂(^^;)

『あげくの果て』☆☆☆
東シナ海での侵略戦争によって、老人が徴兵される世の中。赤軍派ならぬ銀軍派など、現実にあった左右の物騒な問題を老人問題に置き換えた、ポリティカル・フィクション。これまた全編に皮肉というか、ブラックなトーンが散りばめられている。解説で挙げられている以外では、やはり『老人と宇宙』を真っ先に連想させる。
中編にしては視点人物が次々変わり、把握しづらいのが難点。オチも、SF読みならば想像がつくだろう。

『最後の言い訳』☆☆☆☆
これまたSF的なホラー。『わざわざゾンビを殺す人間なんていない』や『』(カフカ『変身』を元にしたミステリー)を思わせる、ゾンビもの。本作では蘇生者と呼ばれるゾンビは、噛まれ、蘇ってしばらくは代謝はなくなっているらしいが、それ以外には人格はそのまま。ところが、しばらくすると(数ヶ月か数年か、はっきり言及されていない)人肉が食べたくなる。『アイアムアヒーロー』を思わせてひっくり返すオチも良いが、冒頭の主人公と父親、愛犬の話は、これだけで短編にしても、犬テーマ小説のベスト級に良い。