思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

シルマリルの物語(下)

☆☆☆☆

モルゴス亡き後のサウロンと善の勢力との戦いが語られる。これこそ、『指輪物語』の前史というべき部分である。映画6部作にも映像化されている出来事も多い。
最大の驚きは、サウロンが当初はエルダールたちと同じ人型であった、そして、海の西、ヌメノールに渡って、王たちを籠絡したことだろう。これはまさに『指輪物語』の蛇の舌を連想させるエピソードだ。これに代表されるように、この『シルマリルリオン』には、『指輪物語』の重複する、あるいは二重写しになるような、または歴史は繰り返す、という展開が多数見出せる。これは、半ば以上に意図的なものだろう。
そしてヌメノールは海に没することになるのだが、これはアトランティスの、ギリシャ神話を連想させ、作品世界でもそこからもじったであろう、アタランテと呼称される。他にはアヴァロンをもじったアヴァルローネという名称が、あったりする。
あと、『ロード・オブ・ザ・リング』の評論の中に、ラストに灰色港から去って行くエルフたちは、死者の国に行くという描写だと解説している人があったが、本作を読めば、それが誤りであることもわかる。西の神の国は、ちょうど日本神話における高天原のように、西方の海の上に存在するののだ(古には、船で行けた)。
さて、『指輪物語』の核心たる、指輪については、わりとあっさりと触れられている。
「エルフたちは多くの指輪を作ったが、サウロンは密かにすべての指輪を支配する一つの指輪を作った。ほかの指輪はすべて一つの指輪と密接なつながりを持ち、完全にそれに従属し、一つの指輪が世にある限り、存続するのである。そしてサウロンの力と意志の大きな部分が一つの指輪に移入された。というのも、エルフの作る指輪の力は非常に大きく、それら支配する指輪には並はずれた力がこめられていなければならなかったからである。」
本作には大きな、広範囲な地図が付録についている。
そして、巻末には、というより本書の後ろ半分(本書は、上巻の半分しかない!)は、索引、エルフ単語帳、上代家系図からなる。特に索引は、簡単な解説までついたもので、非常にありがたいのだが、上巻を読むには非常に面倒でもある。セットで購入し、机上に並べて辞書代わりするには良いのだろうが、持ち歩いて外で読むのには向いていない(´Д`)
映画の前史としては、この下巻を読むだけで十分なのだが、それ以前の膨大な歴史を読んで知っていればこそ、読み終えた時には意外なほどの感動が会った。