思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

戦前の少年犯罪

管賀江留郎
☆☆☆★
築地書館

聞きなれない出版社であることも関係しているのかどうかわからないが、やっぱり本の作りとしてアンバランスなところがある。
基本的には、新聞記事のまとめと、その補足で構成される事典的な内容。
ただ、新聞記者風だから、新聞記事の引用だと思っていたら、そうでもない。普通は中略なんかを挟んで引用するもんだと思うのだが。複数の日付の記事をまとめるためなのか、氏名を匿名に変えるためなのか、旧字体を書き換えるのが面倒だったのか。そのまとめが文章としてわかりづらいのと、関係者が長男だの父だのという普通名詞ということもあってさらにわかりづらい。
また、旧制高校の問題点についてくらいならまだ補足の範囲内だが、2・26事件についての項は、いささか著者の主張が多すぎ。いや、その主張じたいには同意するのだが、本全体の構成としてあまりにいびつで、別の本を仕立てるべきだろう。
とりあえず、本書を読めば、無条件に「戦前の〇〇は良かった」というような言説にな、大いに眉に唾をつけるべし、ということは分かる。少なくとも、未成年に対してメチャクチャ甘い、というか家庭のみならず社会全体ぎ自由放任主義であったことはわかる。

「戦争がはじまるとどこの国でも若者は愛国的になってみんな兵隊を志願して学校がカラになってしまうものなのに、日本だけは学徒出陣で無理やりひっぱられるまで学生はほとんど志願しませんでした(略)戦争がどうのこうのというよりも、欧米と違って自由奔放に育ってきた日本人はもともと規律正しい団体行動が苦手なんではないのかと云う人もいます。」

昭和12年にはじまった日中は戦争で大変な好景気になって、二十代は兵隊に取られていきましたから基調な働き手の10代はひっぱりだこで、就職難どころかいっぺんに高給取りになってしまいました。
 昭和13年以降の少年犯罪で貧しさゆえのものなどほとんどありません。逆に分不相応に高額なこづかいを持つようになったためによからぬ遊びを覚えてしまって、金が足りなくなって強盗を働くとかそんかのばかりです。」

「無抵抗の老人であ?斎藤内大臣にはなんと47発も撃ち込んでいます。(略)政治目的よりも、二・二六事件はまず異常な若者による犯罪であると捉えるべきだと思われます。」

若い女性が外人に弱いのは今も昔も変わりません。(略)女学生が不良留学生といかがわしい関係を結んでいるというような記事は戦前の新聞にたびたび出ておりました。(略)昭和13年9月にはとうとう警視庁がサイン収集禁止令を出すまでになりました」

「戦前の昭和10年は10代の自殺率が2005年の3倍、20代前半の自殺率は2倍以上でした。」

三原山がブーム大ブームとなりまして、昭和8年だけで千人近い自殺者がいたと云われています。未遂者は数倍」

「視学は、学校や教師の不正を監視して処罰する役職でもあるのですが(略)昭和10年12月には兵庫県で県視学のほとんど全員に近い12人(略)が逮捕」

「戦前は子殺しが極めて多く、貧困ゆえのものももちろんありましたけど(略)身勝手な子殺しが結構多いのです。(略)マスコミの出鱈目な報道を信じて最近は子殺しが増えていると思い込んでいる人が多いみたいなんですが、じつはバブル期と比べても減っておりまして、子どもの比率で見ても実は減っておりまして、ましてやバブル以前と比べると子殺しはものすごい勢いで激減しております。」

旧制高校の教師は自分たちも旧制高校出身で、そのまんまの気風を受け継ぎながら場合によっては教師が先頭に立って暴れたりもするんですからどうしようもありません。(略)傍若無人のふるまいを続けて、反省のかけらもない史上最悪の人格が形成されていくことになるのでありました。」
これをみると、軍部のエリート意識や、上層部のバカさ加減の理由も納得いく。

「エリート意識に凝り固まった旧制高校の中でも、一高はとくに突出した選民意識を持っており(略)ことさら女嫌いを標榜していた一高を基準に戦前を見てしまうと妙なことになってしまいます。(略)戦前に関する文献は、一高出身者が書いたものが多いのでとくにです。」