思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

ARC

☆☆☆★

邦画なのに洋画みたいなタイトル、ケン・リウのSFが原作であること、そして不思議なビジュアルの予告編と、『蜜蜂と遠雷』の監督の最新作だけに期待して映画館に出かけた。
最初は『蜜蜂と遠雷』のようなルックで、ピアノをダンスを置き換えたような雰囲気。プラスティネーションをふまえて、まるで蝋人形のように、生活感のある姿勢で死体を保存・飾るという発想、そしてその際に操り人形のように無数の紐がつながれた死体をだんすのように繰って(くって)ポーズを決める、などのビジュアルが斬新。まるで『lovers』のチャン・ツィイーのようだった。主人公や、彼女を場末のダンスホール(?)から見出した寺島しのぶの堂々たる佇まいと衣装もいい。ついでに言えば声もいい。ところが、彼女の最期のシーン直前の二人の会話となると、とたんに説明文の棒読みみたいになるのが残念。ここから後半に向けて、凡庸な日本映画に堕してしまうのが残念。ほぼ白黒に近いセピアのモノトーンになるなど、ルックとしては抵抗が見られるのだが……。
設定としてはSFのみならずありふれているので、SFファンとしては、あくまでもビジュアル面での興味が主体となる。その意味では充分元は取れた……と思ったのだが……。ネタバレなしで結果だけ言うなら、前半☆☆☆☆で、後半は☆☆☆という感じ。特に主人公が社長になってからは、『英雄』のワダ・エミや『lovers』のチャン・ツィイーみたいにモノトーンで格好いい! これだけで元は取れるかも(^^;) 特に女性には。
物語としては、不老不死という意味で、少なくとも『誰も死なない世界』は超えてほしかったかなぁ。
以下、ネタバレは後ほど。
ぐっと飛んでエンドロールは、『蜜蜂と遠雷』の監督らしく、ピアノやパーカッションを前面に出したインストで、なんとかモヤモヤした感覚を無理矢理納得させられた感じもなくはない(^^;)
ラストにもタイトルが出るが、オープニングとは白黒反転していて、原作(邦題ならではの処理かもれないが)の『円弧』の通り、円環を描いている。
細かいところでは、エタニティ社の企業ロゴがダサすぎるのは、逆に狙いなのかと勘繰ってしまうレベル。
低予算感。プラスティネーションアートなど、前半で金を使い果たした? 後半は島のロケで金はほとんどかかっていない感じ。その分、小林薫風吹ジュン倍賞千恵子など、キャストのギャラは高そう。
低予算といえば社会全体の動きはラジオのナレーションのみで、近未来の街を俯瞰で捉えるようなショットはない。不老化反対でもとかも、まるで80年代のオリジナルビデオのようだ。オリジナルビデオといえば、なぜかバンダイナムコが製作してるんだよねぇ……?? 
例えば花火じたいを見せずに音とライトだけで表現しているしたりも、低予算感しか持たなかった。
後半は、まるでNHK連続テレビ小説のようで、ちょっと退屈。それなのに手持ちカメラ主体だったので、少し頭も痛くなった。

以下、ネタバレ

後半は、不老化処置をした主人公が、遺伝子の問題などでそれをしなかった人たちのホスピスを小さな島(ロケ地は小豆島らしい)に作り、そこでの暮らし。なんとほぼモノクロの画面になる。
そこに入居してくる自分の意思で不老化処置をしなかった老人が主人公が出産直後に捨てた息子であることはすぐわかったので、驚きはなかったが(^^;) それよりも、父親が誰なのか明かされなかったほうが気になる。
また、いったんモノクロになった画面がどこでカラーに戻るのかに注目したが、息子たちが死んで、さらに時間が経過して、エピローグとしてカラーに戻る、というのは大した効果がなかった。『シンドラーのリスト』や『トップをねらえ!』とは比べ物にならない。ここで主演の芳崎さんが孫まで演じたのは面白いところ。
ただ、そこが135歳というのは、欲求不満。たしかに我々の現時点では人類最高齢であろうが、未来なんだし、そもそも彼女より高齢で不老処置した人だっていたんじゃないの? どちらにしても、せめて200歳くらいにはしてほしかったなぁ……。(そういえば『誰も死なない世界』では何歳まで行ってたっけ?)