思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

視聴率ハンター

大下英治
☆☆☆☆
光文社カッパ・ノベルス

古本屋でたまたま目にしたもの。以前テレビ視聴率がらみのミステリーを読んだ時は「ハズレ」だったのだが、本作は、まさにこういうのが知りたかった、というマスコミ業界の内幕がふんだんにえがかれた力作。
作者については関係なく買ったのだが、プロフィールを見てみれば、『小説電通』を書いた人、ということ。どうりで。
もちろん昭和59年の作品なので、時代遅れな部分もあるが、意外と現代でも根本的な構造は変わっていない、つまりは読む価値のある作品であった。内容的に将来予測が外れているのは、ファックスの普及で新聞がファックス送信になる、ということくらいでは?
基本的に、それこそ連続テレビドラマを見ているかのような、一件関係なさそうなテレビ業界絡みのエピソードが各章ごとに変わるので、長編としとは弱いかな? と思っていたが、終盤に向けて、大きな陰謀が全面に出てくる。全ての章が伏線になっているわけではなく、前半にあるひとつのエピソードを展開するので、間の2つ3つのエピソードは直接には無関係、というあたりが、ミステリーとしては構造的に弱いところではある。まあ、量産型ミステリー作家ではないので、この一作にテレビ業界にまつわる取材の内容を漏らさず入れ込みたい、というのは分かるし、その結果、よくいう単行本10冊ぶんのアイデアならぬ裏情報が詰まった、非常に濃い一昨になっている。
本作で、本当に? と驚き、やっぱり! と複雑な心境になるのが業界人のゼックス事情だ。なんかうらやましいような、幻滅するような……(´Д`)

「スタジオに集まった(略)主婦(略)を集めるのは、別に募集するわけではない。リーダー格の主婦がいる。その主婦に局側で電話を入れる。(略)主婦が自分のグループの主婦に電話を入れて集めてくれる。(略)一応は出演者ということになっているので(略)手数料を渡す。」
番組で募集もしていないのに座っている人間は、そういうルートで調達されていたのだ。要するに関係者&コネである。


「ドラマの場合など、スポンサー・プレビューというのがある。(略)チェックするから、スポンサーとのトラブルは、オンエアされてからはない。」

以下、終盤の内容に触れます。

ヘリ空母
80年代のこの段階で、実現可能な防衛力としてこれを作中で言及されているのはさすがである。軍事専門でもないのに、よく取材している。これが実現するのに20年かかったわけだが(´Д`)

アメリカの軍事的属国からの独立を画策する新興宗教
というのも、この10年くらいで幸福実現党あたりがさかんにやっていることである。本作のように政治中枢にまで食い込めているかどうかは分からないが……。