思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『さらば人間<新・創命記>』田中光二
☆☆☆★
光文社カッパ・ノベルス

近未来を舞台にしたSFミステリーなのだが、何しろ書かれたのが昭和52年(45年前!)なので、その時代の、10年後くらいのパラレルワールドを想定する必要があり、ややこしい。
テイストも、SFとも推理小説ともつかない、中間小説ともいうべき感じで、佐野洋『透明受胎』に近い。(ちなみに新書の分類としては「SF情報小説」とある)
作者の持ち味なのか、ワンパターンなのか分からないが、高級車、闇の組織に拉致・監禁される、などの展開がほとんどであるのは辟易した。ただ、連作短編でも連鎖長編でもないので、主人公が死んだり、ブラックな幕切れになるものが多いのには好感が持てる。単に冷戦などの暗い時代のせいかもしれないが・・・。
『創性記』☆☆☆★
デザイナーズ・チャイルドをテーマにした、ある意味、最もSFらしい作品。後にイーガンもこんなのを書いている。
『鬼子父神』☆☆☆
臓器移植をテーマにした、というより○○○○をテーマにしており、主人公が新聞記者ということもあってか、ミステリーとして見れば真相は簡単に分かるだろう。
『マリオネット特務員』☆☆☆
ロボトミー手術から、脳への電気信号刺激によって脳の病気を治療する、それにスパイ小説としてまとめたもの。差し詰め、『電脳砂漠』のようなナノテクスリラーの先駆けともいえるだろう。
『過去を買う女』☆☆☆
記憶を創作する仕事をしている主人公だが、作中で描かれるのは、完全に私立探偵のそれで、ハードボイルドもの。ヒッピーでサーフィンをしていた娘が強姦され、記憶をなくする薬で失ったそれを取り戻そうとする。どんでん返しはもう一つ楽しめないタイプだったが、長編のシリーズではあり得ない幕切れが良い。
『闇よりの侵略者』☆☆☆
本作でもドラッグパーティーが描かれる。原発反対など、ヒッピーまたはラブ&ピースの風潮が忍ばれる。
『凍った明日』☆☆☆
人工冬眠がテーマ。『誰も死なない世界』ですらスルーされていた永遠の命と社会問題など、現代でも全く古びていないテーマである。本作でも教授がヒッピーに身を落とす。
『神への道』☆☆☆
世界的科学者の24時間警護を命じられた警官が、ウィルステロに遭遇する。『パトレイバー2』や地下鉄サリン事件に先駆けて描かれたものだが、幕切れはあっけない。