思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『海を見る人』小林泰三
☆☆☆☆
ハヤカワ文庫JA

再読。とは言ってもほとんどの内容を忘れていた。

『時計の中のレンズ』☆☆☆☆
異世界ものが流行りの昨今だが、本当の異世界ってのはこういうことを言うんじゃいっ! 作中の描写を手がかりに世界を思い描く。てっきり『ガンダムF91』のフロンティア4みたいな、回転する円筒と高密度星が連星になっているのかと思ったら、全然違った(^_^;) 本作ではバッチリと俯瞰的・客観的に世界設定を明かしてくれるのがありがたい。

『独裁者の掟』☆☆☆☆
ディックの『高い城の男』とごっちゃになりやすいタイトルだが、全然違う。冷酷無慈悲な独裁者と、意表を突く世代間宇宙船(これは本書でも度々登場する設定)。カットバックによる2つの物語は、てっきり敵対する2国が衝突するのかと思いきや・・・。実に物語的に美しいラスト。

天獄と地国』☆☆☆☆
後に長編化しただけあって、魅力的な設定ではあるのだが、実にイメージしづらい。敢えて現代地球人的な文章表現をしているので、尚更だ。『時計の中のレンズ』とは違って、最後まで読んでも世界全体がはっきりわからない。解説を読んでようやく分かったくらいだ。てっきり高重力の物質からできている球状の物体が、高速で回転しているのかと思ったのだが、考えたらそれだと赤道面以外はどんどん遠心力が弱くなるので、その描写がないのはおかしいのだった。

『キャッシュ』☆☆☆☆
恒星間宇宙船では、人工冬眠がつきものだが、数週間の単位で刺激がないと、脳の機能的に記憶が失われ、最後には人格が消えてしまうと言う。最後のはフィクションだろうが、他の人工冬眠者では読んだことのないが、実に説得力ある設定だ。そこで、コンピュターによる『マトリックス』的なシミュレーター環境で移住・冬眠者が暮らす世界で、不具合が起こった。その原因を探る、ミステリSFだが、SFミステリとしても実によくできている。クライマックスも劇的で、ハリウッド映画にしてほしいくらい。『ライフ』とか『パッセンジャー』より面白くなるのでは?

『母と子と渦を旋る冒険』☆☆☆☆
宇宙の果てへ向かった探査船の冒険を、文字通りの一人称視点で描いたもの。主人公の名前が純一郎だったりするが、やっていることは<ジーリー・クロニクル>ばりの異星知性体もののハードSFだ。これも巻末に解説が載っているが具体的にはちょっとイメージしづらい、理系レベルの高い一遍。

『海を見る人』☆☆☆☆
これまた描写も100%の人類が出てくるが、やっていることは『竜の卵』ばりの高重力世界の見え方・時間の進み方の世界を舞台にした話。ラストは星野之宣っぽい叙情的な幕引きとなっている。

『門』☆☆☆☆
最近ではよくあるジャンプポイント系の宇宙戦争もののエッセンスを抽出したような短編。ちょっと恋愛要素があったり、『独裁者の掟』にも通じるものがあるかも。構成の美しさは、さすが本格ミステリ作家でもある作者の真骨頂。