思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

文字渦

円城塔
☆☆☆★
新潮文庫

倉坂鬼一郎が『文字禍の館』というミステリーを書いているが、それとの共通性はあまりない。山田正紀とか、田中啓文とか、鯨統一郎とか、はたまた奥泉光が書きそうな、ナンセンス文字(広義の)ミステリーである。一番近いのが『実験小説 ぬ』(肝腎の一文字が思い出せん(^^;))だ。円城塔らしく衒学趣味も全開。
連作短編集で、共通するのが、日本語の文字をテーマにしている、ということ。ルビが漢字から反乱する話、闘犬ムシキングならぬ漢字バトルがあれば、秦の始皇帝兵馬俑を作った男の話という硬派なもの、漢字をウイルスとして捉えたもの、はたまた仏教の世界観での浄土や輪廻転生を並行世界へのワープとして捉えた東洋的SFなど、まさに多種多様。
ないものねだりかもしれないが、そもそも文字・漢字とは何か、という基礎知識を学べる序章があると、なお良かったかな。
ある種のバカミス、バカSFであることは間違いないが、大学教授とか、硬派なオタクが居酒屋で果てしなく脱線していくようなタイプのバカ話である。
なによりも、一見作者オリジナルの文字のようだが、そのほとんどか、下手すると全ての文字が実在するらしく、これは校閲に定評のある新潮社でしか出せなかった本なのかも(^^;)