思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

斎藤家の核弾頭

篠田節子
☆☆☆☆★
朝日文庫

裏表紙アオリに「スラップ」から、てっきりひょんなことから核弾頭が家にやってきた斎藤さん家のドタバタを『クレヨンしんちゃん』っぽく描くのかと思っていたが、実はハヤカワ文庫J Aからでてもおかしくない、森奈津子が書いてもおかしくないジェンダーSFであった。
特に、序盤の、妊娠と老化の観点からのジェンダー論には、男として何故か反省させられる(^^;) 内容的には、小林泰三田中啓史あたりも書けそうなのだが、このへんは女流作家の真面目と言える。
未来の日本では、中共ばりの社会主義的な管理社会だが、SFとしとはありがちなもの。優れた国民のみに子孫繁栄の権利があり、劣等国民は去勢されてしまう。結婚相手も裁判もコンピュータが決める。
左翼的な人が読めば、日本国家と主人公の夫が右翼で、主人公である妻は左翼と見えるだろうが、実は夫の語る国家論と妻の心情は、だとうな保守とリベラリズムであることが見てとれよう。
少なくとも、後半の国防や核抑止論は、深水黎一郎かと思うくらいまとも。
タイトルにある核弾頭が出てくるのが終盤になってからなので、序盤のうちは、これこそ田中啓史的な大きな赤ちゃんが突如巨大化して手がつけられなくなることを指しているのかと思ったくらい。中盤以降には、彼女が『ハイペリオン』のレイチェルばりに存在感を増してくる。
実に盛りだくさんの本格近未来SFなのだが、もうちょっとテーマを絞っても良かった気は否めない。超成長娘でひとつ、近未来管理社会、保守主義ジェンダー論、3作品以上のアイデアが詰め込まれているのだ。作者もSFはあまり書かせてくれないから、ありったけのアイデアをぶち込んだのかな?