思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

女帝

☆☆☆★

以前に『映画秘宝』で記事を見た、チャン・ツィイー酒宴ということで観た。『グランドマスター』みたいな映画かと思ったら、宮廷の、皇帝と皇后そして他の後継の最高権力争いを描いた内容。一見して、韓国ドラマみたい……と思っていたが、見終わって他のレビューに「シェイクスピア」風とあって、なるほどと納得。
ちなみに原題は『夜宴』で、クライマックスが宮中の皇帝主催の夜宴で終局的事件が起こることに依る。
カンフー映画要素はあるにあるが、冒頭の竹林での戦いからもう「これはバトル映画ではないぞ……?」と気がつく。真面目にやれば軽く勝てそうな相手になかなか武器が当たらなかったり、意味不明な位置から攻撃を仕掛けたりする。凄いのはいつ来るかどころか、そこを、通るかどうかも分からない雪の中で待ち伏せしたり、クライマックスの夜宴では、天井から近衛兵が降ってきたりする。
編集も、全身カットの間に明らかに照明などを変えた別撮りアップを一瞬挿入したり、アクションシーンはほとんど1カット1秒ずつというレベルで切り刻まれている。
そのアクションは、実際のぶじゅを活かしたカンフー映画のそれではさらさらなく、派手さだけのアクション映画でもなく、もちろん『ファスト・オブ・レジェンド』『S P L』的なリアルファイトでもない。本作では芝居が物語上の重要な要素として最初から最後まで随所に出てくるが、まさにアクションシーンも芝居(舞台)的と言える。特にその最初の竹林バトルでは、仮面の芝居者たちが、静止してたりヘナヘナ動いているだけなのに、黒いフル装備の騎士が全然倒せないとか、こいつら見かけだけで、素人の農民? と思ってしまうレベル。
で、物語だが、主役のチャン・ツィイーは夫を現皇帝に殺されて皇后の座についたが、元皇帝の息子とその恋人は、皇帝の座を狙っている……という話。チャン・ツィイーは、ヘタしたら、大部分の登場人物の中でも歳上、という設定だが、顔からして二十歳そこそこにしから見えない(^^;)それでいて、健気なだけでなく、凄みのある表情を見せるのは、『グリーン・ディスティニー』以降の彼女の映画を観た人なら言うまでもないだろう。これをはじめ、登場人物たちはシェイクスピア劇ほどではないが、眉間に皺を寄せたような(重厚な)演技スタイルとなっている。
音楽は『英雄』と同じタン・ドン。同作とはまた別のテイストながら、似たような旋律も聞こえてくる。
本作で、手放しで褒められるのが美術と衣装。中国ならではの(たぶん映画的な演出と、韓国と同じく歴史美化思想/プロパガンダによるフィクションが3割くらい足されていそうだが)豪華絢爛かつ、値段も気品も身分も高そうな画面が、ほぼ全舞台に渡って設計されている。
……と、本来ならここまで舞台が整っていれば、ストーリーはともかく、画面を見ていれば世界に浸れる作品だと言いたくなるのだが、アクションのまずさとカットつなぎの不細工さで、もうひとつ乗れないのが悩ましい。画面設計(レイアウト)にしても、たぶん予算はかなり少ないと思われる『英雄』のほうがはるかに素晴らしい、