思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『七人のイヴ(下)』ニール・スィーヴンスン著/日暮雅通
☆☆☆★
ハヤカワ文庫SF

変な構成だなぁ・・・。第2部の承前(続き)から始まって、真ん中から第3部になる。
全てボリュームは同じくらいなので、上中下の三冊にすればいいのに・・・と思って解説を読んだら、先に出た新書版はそうだったらしい。
内容も、2部は1部と登場人物も同じで、分ける必要は特にない。3部はなんと2部のラストから5000年も後の話なのだ。
解説には3部こそ書きたかったのだろうとあったが、同感。1、2部は「エピソード0」として後から出しても良かったんじゃないかなぁ・・・。
というのも、3部は1、2部と同じボリュームに揃えるためか、説明過剰な割りに物語的には中編程度しかプロットがない(進まない)のだ。こんなことなら、3部だけを倍のボリュームにして出せば良かったのだ。
1、2部は軌道上を舞台にしたハードSFで、人間ドラマ(ゴタゴタ)を別にすれば、『パンドラ』を連想した。3部は、5000年後ということで、『タイム・マシン』『タイム・シップ』をやりたかったんじゃないだろうか。設定が特殊なので、その説明のために1、2部を用意した、というか。でも、そこまでしてもソフト面がわかっただけで、ハード面では軌道上の小コロニーや、軌道エレベーター、スカイフック、遺伝子工学など、少しストーリーが進むと同じくらい設定解説がある、という異常な構成になっている。人間の描き込みも1、2部に比べると、無きに等しい。
なお、訳者は奥付を見る限り、SF畑の人ではないのか、訳語にちょっと怪しい感じを抱いた。宇宙用語である「系」を「システム」と訳してあったり、地球に関する言葉がバラバラで、特に3部開始直後は訳がわからない。「ニューアース」「オールドアース」「地上」などが混在しているのだ(もしかすると原書でも敢えてやってる?)。(ちなみに、オールドアースというネーミングは『ハイペリオン』のオマージュ?)
オチも、これだけの大長辺にしては、短編みたいなサゲで、やはり3部の尺不足が気になる。

以下、若干ネタバレ

特に3部で長い時間が経ち、7人の子孫たちが人種として分かれている、という設定は『ドクター・ストーン』を連想した。2015年だから、本作を読んでパクったのかも(^_^;) 本作とは別の方向の面白さがあるから、まあ許せるし、そこまでSF的にはそこまで突飛なアイデアでもないので、単なるシンクロニシティーかもしれない。
本作の方が、女だけの生き残りから、遺伝子工学で男を作る、というから、より進歩している。
生き残りといえば、本作では70億人くらいの地球人類のうち、ほぼ全滅しているわけで、地球全体がなくなるものを別にすれば、最高クラスの大量虐殺SFかもしれない(^_^;)
細かいところを言えば、コンピュータが故障しないのか、とか、工業インフラがほとんどないのに、どうやって再建したのか、という問題が気になった。