思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『イスラエル軍事史』

モルデハイ・バルオン著/滝川義人訳
☆☆☆
並木書房

原著は2004年、訳書は17年出版。
第一次大戦あたりからのイスラエルを中心とした政治・紛争史、というのが本書の妥当な説明だろう。基本的には年代順に、各章ごとに異なる研究者が、戦争だけでなく、テロなど、少し異なる角度から執筆している。
興味深いのが、本書には一語たりとも「中東戦争」という単語が登場しないことだ。それぞれの戦争には「六日戦争」とか「消耗戦争」などの名前がついている。中東戦争というネーミングが、いかに西洋中心に(部外者視点で)つけられたかがわかるが、逆に第一次中東戦争っていつ? ということになる。地図も少ないので、概要としとは『中東戦争史』のほうが分かりやすかった。
原文の問題もあるのかもしれないが、日本人には響きの似たような名前が多いので、どこの国の人物なのかよく分からなくなるのがしんどかった。読むのに2週間もかかったのは主にそのため。
中東におけるユダヤ人、パレスチナ人、そしてシリア、エジプト、ヨルダン、そして裏側の米ソ、という構図は、大東亜戦争前の満洲の状況を思い浮かべれば、理解しやすい。
「リタニ作戦(1978年(略))のあと、国連によって在レバノン国連暫定駐留軍(略)が編成された。(略)イスラエル国防軍の撤収後の力の空隙を埋め、平和を維持するためである。しかし、国連軍は無能」
イスラエルの脅威を考えれば、レバノンには二つの選択肢しかない。PLOに厳しく対処するか、あるいは野放しにするかである。後者であれば報復攻撃で経済活動は麻痺し、政治体制にも打撃を受ける」
「インティファダの本当の持久力は、パレスチナ人の経済力、自給力にかかっている。自立した経験がないので、イスラエルに依存せざるを得ない、これが現実である。過度にイスラエルとの接触を断とうとすれば(略)経済的困難に耐えることを意味した。」
本題たるべき軍事的解説は、最後の訳者あとがきの中の、3、4ページしかない。テロ組織の手製ロケットの作り方、イスラエルアイアンドームとナメル装甲車の解説である。口絵にも、センチュリオンまでの白黒写真しか載ってないし、期待外れ(?)だった。本文中でも、具体的な兵器名が出るのは極めて稀。それも飛行機の、ミラージュの名が少し出るくらい。いつからメルカバが開発、配備されたかも書かれていないのだ。