思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『人は変われる』高橋和巳
☆☆☆☆★
三五館

不思議な本だ。一見『人を動かす』のような、ビジネス/自己啓発本かと思いきや、宗教にも通じる自己洞察、哲学の本だからだ。
『ブッタとシッタカブッタ』を専門的に書いたもの、と言ってもいいが、一番ちかいのは仏教哲学の真髄・唯識だ。
著者は精神科医で、単なるカウンセリングではなく、フライト、ラカン的な西洋精神論だけでなく、禅やヴェーダなどの東洋哲学の素養もある。
著者が、患者との対話、回復の過程を通じて実感した、人間の心の仕組みや、「大人」の心の成長についてのドラマ(患者の内面まで、あたかも小説こように描写することだけが、本書で唯一、盛りすぎ感があった(^^;))は、まるで、読書も瞑想を通じて見える景色を教えてくれる道標のようであった。
「私はただ怒りに身を任せて、それを感じていればいいのです。こころから焦りと緊張が消えました。私は闘いを放棄するような感覚の中で、怒っている自分を受け入れていたのです。」
「怒りと自分が向き合わなければならなくなったとき、そして、怒りと向き合ったとき、彼女は自分の中に怒りを感じ、怒りを味わうことができた。
 この瞬間、こころが自分から離れる能力が自動的に動き出した。なぜなら、怒りを感じたいるとき、感じている自分はすでに怒りそのものではないからだ。」
これは、ある種の悟りと言えよう。

「ユーモアを語っているときその人は、自分を現実から一度分離している。それは、自分の行動の必然性を、それから離れて観察している余裕とあきらめの立場から生まれる。
 ユーモアとは、主観性と客観性との間の小さなずれを知ったときに生まれるものである。」
そう考えると、土屋(元?)教授がユーモアたっぷりの文章を書けるのも納得できる気がする。