思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『シンクロナイズド・モンスター』

☆☆☆☆

まず驚いたのが、(少なくとも登場人物的には)ギャグではなく、シリアスな話である、ということ。てっきり『』みたいなハチャメチャなコメディかと想像していたので。
上京してうまく行きかけたものの、ひょんなことから失敗した結果、酒に溺れたのか、酒好きを拗らせて失敗したかして、故郷に戻った主人公(アン・ハサウェイ)が、朝の8時5分に近所の公園に行くと、何故か韓国にその巨大コピー怪獣が数分だけ出現する、という物語。
こう、あらすじを書いていても「なんやそれ?( ´Д`)」と思うが、実際にそうなんだからしゃあない。終わってみれば、ちょっとイタイ日本の日本の映画でいかにもありそうなストーリー。
途中までは、青春の挫折、みたいな群像劇として、それなりにしっかりした演出だったのに……。SF設定的には穴だらけで、『怪物はささやく』のほうがまだまし、というレベル。あちらは幻覚、という余地が多分にあるが、こっちは全世界が目撃し、建物や人的被害もあるしね。邦題も『怪獣ガール』とかで良かったんじゃない?
クライマックスからオチにかけても、子供向けアニメか?という浅薄さ。
目も鼻も口もデカイ、髪もたぶんカツラ、というアン・ハサウェイが好きなら観ても損はしないんじゃない?という感じ。脇役も含めて、役者陣の演技も総じて良いし。

以下、ネタバレ

いったいどんな理由で、主人公と幼馴染みのオスカーの二人だけが韓国で巨人(片方はロボットなので)として実体化するのか、幼少時に工作を潰された怒りのエネルギー、なんて本作の説明は、到底納得できないが、そこは百歩譲るとしよう。限定的に異世界への扉が開く、というのはファンタジーでは定番なので、その亜流とカテゴライズできるから。
主人公を助けた級友が二人続けて現れた男への嫉妬から狂うのか、サイコパスの本性を現したのかは不明だが、終盤は単なるサイコ野郎から逃げる映画になってしまう。私的には何故か『コレクター』を思い出したが。
そいつをやっつけるのと、怪物現象の謎解きと収束が一体になっているのは、脚本として美しいとも言えるが、主人公以外の登場人物にも感情移入して観ている人からは、都合良すぎるとしか思えないのでは?
サイコと言えば、終盤にオスカーが幼馴染みの一人をヤクをやっているとなじる場面があるが、それが事実なのか、気違いっぷりを表わす演出なのか、判断材料がないのも難点。室内で巨人花火を打ち上げるシーンだから、後者だとは想像できるのだが……。好きなキャラだったので、退場は残念だった。
最大の残念ポイントはクライマックス。韓国まで行って、目の前にいないオスカーを捕まえられるのは百歩譲って良いとしよう。
怪獣の手で人間を潰さずに捕まえられる握力調節ができる、というのも譲ろう。
捕まえたオスカーを、いったいどうするのか。握り潰すのか、食べるのかと期待したら、なんと放り投げる。なんじゃそりゃ?と、何か既視感があると思ったら、動画レビューでピッタリな比喩があった。そう、バイキンマンの最後「バイバイキーン」である。これは残酷なシーンを描くことで、主人公の印象を悪くしたくないという「逃げ」でしかない。リアル志向の世界観なので、オスカーのあの後は、木の枝で皮膚を裂かれ、地面に叩きつけられて、全身骨折。頭蓋骨が割れたり、骨が飛び出たりするはずなのだ。そういうのを見せないのが、日本の緩い映画そのものの悪癖そのまんま。どうせ見せないなら、踏みつけて足を上げないだけで良かったんじゃないの?
ラストも、『魔女の宅急便』的な成長があっても良かったのかな……。となると、主人公も中高生にするのがベストだったのに、アン・ハサウェイが主演したかったせい?