思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『ダンシング・ウィズ・トムキャット』夏見正隆
☆☆☆☆
朝日文庫

『空母いぶき』とも通じる、現代架空戦記ものとでも言うのかな?
設定が面白い。開発が遅延しているF35配備までの繋ぎとして、米海軍でモスポールされていたF14と、空母キティホークを買い付け、海自で運用ノウハウを蓄積する。その頃、尖閣諸島に領空侵犯した中国軍と向き合うことになる……という、正に『空母いぶき』の異母兄弟のような物語なのだ。
主人公は空自の伝説のパイロットだった父親をもつ新人幹部候補生の女性。バディを組むのは、オーストラリア空軍からの研修生である金髪の女性パイロット。アニメ化されてもおかしくないような設定。とはいえ、作者は、男性イーグルドライバーを主役にしたシリーズが代表作なので、別にラノベ志向でもない。あくまでも作風の幅を広げるための変化球なのだろう。
その証拠に、真骨頂である飛行機操縦描写には一切の手抜きがない。飛行前点検から各機動前後のリアクションとパイロットからの見た目、各種戦術挙動まで、まるで自分が操縦するかのように書き込まれている。トムキャットは、複数のミサイルを搭載できるのがウリだが、そうすると管制と操作が滅茶苦茶大変になるとかも、目からウロコである。
中でもアクロバティックな機動を取っている飛行機にはどのような物理法則と操縦が行われているか、の関係がよく分かる。飛行機ファンなら必読と言える。上述したように(視覚的なイラスト等はなく、あくまでも文章表現として)「萌え」要素があるので、とっつきやすいし。中には『トップをねらえ!』のパロディ? というシーンもある(甲板磨き時のセリフがそれだが、そもそもがパロディだらけの同アニメゆえに、それ自体が何かのパロディの可能性も大)。
本文前のイラストとして、自衛隊仕様のトムキャットの部隊マークがオリジナルデザインされていたりするのが楽しい。
1、2年前の模型雑誌『スケール・アヴィエーション』で空自仕様のトムキャット、というif作例が掲載されていたが、それより早くこんな小説があったとは……。
唯一、ケチをつけたいのが、西村京太郎か?!と言いたくなる章またぎの内容の重複。書き下ろしなのに、連載もののようだ。章の切れ目で読むのを中断し、再開したときに内容を思い出しやすいような配慮?……そんなの要らんわ!読者をバカにするな!(バカなテレビ視聴者と一緒にするな)