思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『カメラを止めるな!』BR

コメンタリーはメインキャスト全員16人によるもの。このあたりは本編が、特定の主役に片寄らず、見事な塩梅・配分で群像劇になっていることと並んで、無名俳優による良さ。コメンタリーそのものは、途中で監督が「小声で私語しない」と注意するくらい、とっちらかっているが(^_^;)

もうひとつは監督と奥さん(低予算映画ゆえ当然スタッフ(^_^;))によるじっくりバージョンだが、『ロード・オブ・ザ・リング』のピージャク夫婦ほどの情報密度はない(^_^;)でも、劇中でスタッフが撮影しようとしていた映画のタイトルが『トゥルー・フィアー』で、その脚本も完成しており、キャストに渡していた、というのは正に私が知りたかった情報だった。
コメンタリーそのものは、これらを経ているからか、テレビ放送時の副音声版がテンポ、情報量共に一段完成度が高いことも再確認。
また、今回のコメンタリーで、テレビ録画から通算して5回めになるが、そこでようやく、最後に監督役の日暮が娘の昔の写真を見て感無量なのか分かった(^_^;)ゞ最後の組体操撮影で、期せずして思い出写真と同じ状態(娘を肩車)になったからだね(T_T)
画面の隅や、奥の方でチラッと写っている出来事に気がつくかどうか、という発見の楽しみも、有名俳優にフォーカスせざるをえないメジャー映画では味わえない楽しみ。何度見ても「あの場面、あそこで○○が○○してた」という発見がある。そういう意味でみんなが主役であり、だからこそ同じく名もない視聴者も主役になれるかもと思わせる。
後は、普通の映画なら、ワンカット完成映像なしで、日暮が依頼を受けるシーンから始まり、中盤は脚本の難航、ワンカットリハ中の試行錯誤、それらが一時間くらいあってからの本番、がクライマックス、となり、完成映像こそソフト特典で付くようになると思う。そのへんが本作が思いきったところ(インスピレーションの元ネタになった演劇があったにせよ、映画として構成するにあたって)。斬新さだけを狙った前衛的な作品ではなく、あくまでもエンタメとして笑えるものに狙って、それが成功しているのが凄い。
コメンタリーやボツカットでカメアシちゃんが、ぎっくり腰のカメラマンから合図を送られて笑顔になるというアイデアがあった、というボツ案で納得。その他の削除シーンも、テンポを考えれば同様。このあたりは、ディテールが増えれば増えるほど良くなった『ロード・オブ・ザ・リング』とは対照的。ボツシーンも、普通の邦画ならあって当然なのに。それらをカットすることで、あのスピード感、ドライブ(グループ?)感が生まれたのだろう。
改めて思うのが、本作の面白さ、構造が『安楽椅子探偵』と似ていること。「問題編」としてのワンカット、2幕は3幕めのプロローグとして、「解決編」という意味での謎解きの面白さなのだ。ワンカットは「この作品には不自然なところがいくつもありますが、なぜ(どんな事情があったの)でしょう?」という問題であり、そのあとが、その裏舞台ということ。舞台っぽく、コメディである演出も共通する。

パクリ疑惑がいくつかあるみたいだが(劇作家の件以外は見ていない)、私が気になったのが劇伴。ソフト添付のブックレットでCM畑の作曲家と知って納得の、ノリの良いギターロックだが、ほぼ布袋寅泰( ´Д`)
ボツシーン以外の特典映像について。
ドキュメンタリー編は、いわゆる飲み会でのマジダメだしで涙する人とか、普通に面白い。演劇の民間ゼミという出自がよくわかる。これまた『情熱大陸』とかで放送されそうな感動編。コメンタリーでも出ていた、代々木公演での練習風景も収録されている。
最高なのが、舞台挨拶を時系列まとめたもの。インディーらしく先行上映から、規模が拡大するごとに、マメに舞台挨拶を繰り返して、反響が次第に拡大していくのを仮想体験できて、何故か感動してしまう。そう、本作の最大のポイントが、視聴者(ファン)が、作り手と一体感を抱いてしまうことだろう。これは、有名俳優やプロのスタッフではない人たちが作ったことで、もしかしたら、自分たちもドリームを掴めるかも、という錯覚なのだが(^_^;)まあ、悪く言えば「俺はまだ本気出してないだげ」症候群なのかも。
ゼミ時代の私服で会議室での芝居も興味深い。当時は『カメ止め』の主演男優・女優はおらず、逆に映画のために必要なチョイ役もいない。いわば演劇学校の生徒が、習ったことを初めてやってみた状態。なので、元々の演技の上手い、上手くないがよく分かる。アル中役者役だった細井さんと、ポンしゅまりさんが明らかに上手いよね。それが、ちょっとの上達と演出で、普通に見られるものになっていることが素人にも分かるのだ。そういう意味でも、裏側をメインにした内容そのものと併せて、映画というものの勉強にもなる。
実はワンカット撮影時に、監督が頭にハンディカメラ(ゴープロ)を付けてカメラマンの横にいた、というのも舞台裏マニアには興味深い事実。それと音声さんの三人がカメラの裏側にいたのだ。エンディングにも一部使われているその映像を、ノーカットで収録。嬉しいが、音声がほとんど聞こえないのと、さすがに酔う(。>д<)採用テイクっぽいが、どうせなら3、4テイクめとかの違う芝居も見たかったなぁ……。音声だけは本番のを重ねて欲しかったかも。あるいは、4分割して、4テイク同時に見せるとか(^_^;)
とは言え、ディスク1枚の限界まで詰め込んだという、ファン必携のソフトであることは間違いない!