思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

弥勒篠田節子
☆☆☆★

本作をなんと評すべきか。 ブータンチベットか、パスキムという架空の国名から、パキスタンを連想するが、言われてみれば、パキスタンについての否応なくイメージがまるでないことに愕然としたり……。
そこを舞台にした冒険小説であり、宗教とは、生きるとは? という純文学的なテーマでもあり、文化大革命をさらに徹底した純粋共産主義共産党が存在しない、原始農業主義?)を描いたプロパガンダ作品でもあり、架空の国での生活を余儀なくされるSFでもあり、厳しい自然と共産主義的な管理社会を描いたノワールとも言える。
状況説明の長い会話文に自然さがないのが気になるが、映画的なフラッシュバックと思えば割りきれる。
日本でのある意味華やかな生活はサクサク読めるが、パスキム潜入後で、捉えられてからはややくどいかも。何せ、連れて行かれてから、脱出するまで400ページもあるのだ。まあ、「現実」の過酷さ、ある意味でのこの世の地獄を描く、読者にも、人間すら「動物」ひいては「物」に過ぎないということを実感させるには、それくらいのボリュームが必要なのかもしれないが……。最初は、逢坂剛高橋克彦っぽいかも、と思ったが、海外の「文豪の古典」に通じるところがあるかも(あんまり読んでないからイメージだけだけど)。
いわゆる「仏教説話」的な、「人間も動物も同じ生き物」というのとも違う。中間小説の対極たる、いわば総合小説と言えるかも。
個人的には、もうちょっとコンパクトかつ、共産主義色を少なく、ノワール色を強くしたほうが良かったんじゃなかろうかと思うけど……。
『聖域』なんかに比べるとエンターテイメント性やラストのカタルシスは低いので、解説にあるように、楽しく読める、というものではない。黒澤の『生きものの記録』『白痴』(どちらも観てない)とか、ヨーロッパ映画みたいな雰囲気。