思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

生存者ゼロ
☆☆☆☆

角川ホラー文庫などでよくあるパニックものだが、2つの点で独自色がある。
1つは、普通なら真相究明から、クライマックスの立ち会いで起死回生の策の立案まで一手に引き受ける役割の、科学者について。まず、まともな学者ではないくらいはよくあるが、マッドサイエンティストどころか、才能はあるとされている(作中でそれを読者に実感させる描写がほぼないのは問題)ものの、はっきり言ってキチガイ。おまけに、それに当たる学者がもう一人出てくるのだ。
但し、これにはこれから述べる本作のもうひとつの特徴が絡んでいる。
本作は、中盤において、大きなどんでん返しというか、方針転換が仕掛けられている。それを面白いととるか、がっかりして本を投げるかは、大きく別れるところだろう。
私的には、この中間くらいの微妙な印象。詳しくは後のネタバレ感想で。

次回作『ゼロの迎撃』と同じく、我が国の危機管理に警鐘を鳴らす意図がある本作。本作は、民主党政権の体たらくを皮肉るように、首相を筆頭に、大臣は保身ばかりのダメダメで最悪な連中ばかり。もちろん、主人公たちが最後には彼らを一喝する展開もあるが、普通の危機対応描写を期待する読者には、ここでもムカムカして本を投げられかねない。私的には、腰抜け民主党政権へのブラックジョークとしてある意味では楽しく読んだが…。『ゼロの迎撃』では、自民党政権になって、信頼性が百八十度変わった描写になったのだ。
あと、ラストはタイトルに偽りあり?
そもそも最後の1文の意味が分からなかったのは私だけなのだろうか?


以下、ネタバレ。


中盤の大転換は、新種のウィルスによるパンデミックものかと思われていたのが、実はシロアリによるモンスターパニックものだった、というジャンルミックス的構成。なので、科学者も、前半の細菌学者と、後半の昆虫学者の二人が必要になっているのだ。
それに加えて、前半の学者に、預言者的な役割も付与しているため、妙なことになっているのだ。
本作の登場人物は、一癖あるやつばかりなので、感情移入できるのは、ほぼ主人公である自衛隊の廻田だけと言っていい。ただ、その彼にも幻聴(預言)が聞こえたりと、普通のドラマチックな物語的には問題が多い。巻末の選考委員批評を見るに、過剰に凝った人物設定に改変しすぎたんじゃないだろうか。
シロアリが襲ってくるシーンは、モンスターパニック映画だけでなく、怪獣映画やゾンビ映画のテイストもあり、それなりに楽しめる。途中で羽根が生えたり、『ガメラ2』なんかと通じるものも多い(レギオンと違ってシロアリには羽根が生えるものだが…というより、レギオンのモチーフにシロアリも入ってたのか)。
惜しむらくは文字通り生存者ゼロ、すなわち人類滅亡させなかったこと。あそこまで黙示録とか神の声とか出して煽ったんだから、少なくとも北海道くらいは壊滅させて欲しかった。それともラスト一行が人類滅亡を示唆しているの?

生存者ゼロ
☆☆☆☆