思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

追補版
『レッド・ストーム作戦発動(上)』トム・クランシー
☆☆☆☆★

雑誌『スケールアヴィエーション』のAー10特集で、サンダーボルト2を『悪魔の十字架』と書かれている、ということに興味を惹かれたから。それ以外の事前情報はない(^_^;)
てっきり中東紛争だと思って読んでいると、なんと第三次世界大戦とは。
冒頭、ソ連の石油施設のテロの描写から、その情報(下調べ)の密度に圧倒される。1ページごとに、その倍くらいの軍事・政治的バックボーンが見えるので、ある程度以上の(ミリオタ的でも良いし、第二次大戦史や政治、外交まであればなおさら)知識がある人ほど、読むのに時間がかかるかも。600ページと大部だが、いつものペースなら3日か、せいぜい4日で読める分量。ところが、一週間以上かかってしまった。
戦争も、前作『レッド・オクトーバー』仕込みの潜水艦戦だけでも十分書き込まれているのに、航空機戦、戦車戦、レンジャーっぽいところまで書かれている。そりゃ、四倍長く、読むのに時間がかかって当たり前だわな。また、出来事自体は戦闘ばかりなので、ターボで読みたいのだが、戦略、戦術、兵器のスペックなどのディテールを楽しむ小説(映画なら、戦闘シーンそのものが見せ場になるタイプ)なので、読み飛ばせないのだ(^_^;) 読み飛ばすポイントは、アイスランドを横断するチームのエピソード(場面に「アイスランド」とあるブロックはほぼ全て)。
唯一の難点は、原著の問題(軍隊のスラングとか、前後の文脈からの類推を前提とした省略、英語ならではのニュアンスの違い)もあるのだろうが、少なくとも日本語の小説として引っ掛かりがちょこちょこあることだ。平たく言えば『訳文に難あり』。
途中から、あたかも歴史小説か『史上最大の作戦』のような戦記ものを読んでいるとような感覚になるかっちり構築、書き込まれた作品。
なにせ30年時代なので、時代を感じさせる事物もなくはないが、驚くほどわずか。『首都消失』より少ないのが凄い。最大のものはステルス機。型式番号じたいウソ(これだけはフィクションってこと?)だし、形状も、曲線翼とかも、公開前の想像図そのままで、初のステルスである三角すいの117ですらない。カバーのイラストがそれっぽいが、そのダサさが非常に残念。
あと、膨大な米ソの兵器が出てくるので、『首都消失』のように、その都度写真を入れるか、巻末にでもそれをつけて欲しかった。実は、米ソの艦船は『沈黙の艦隊』と時期が同じなので、脳内にイメージするのに相当助かった(空母ニミッツ、タイコンデロガほか)。

レッド・ストーム作戦発動(ライジング)〈上〉 (文春文庫)レッド・ストーム作戦発動(ライジング)〈上〉 (文春文庫)
トム クランシー 井坂 清

文藝春秋 1987-09