思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

AKIRA』☆☆☆☆
小学生の頃に見た時は暗い、怖い話、という印象だが、30年ぶり(!)に見てみると、これは凄い作品だわ。
wikiペディアで見ると、やはりかなりの金をかけているだけあって、アニメートの手間は膨大。『ポニョ』の鬼のような作画を、『攻殻機動隊』の世界に当てはめたのだ。そりゃ物凄い密度の画面になるに決まっている(もちろん、現代の目で見てそうなのだから、当時のアニメオタクたちの驚きは想像に難くない)。押井守的にいえば「畳み掛けるように作画」されたカットもあちこちに出てくる。それは『パトレイバー2』ではなんとか入れ込んだようなカット、メカであったり、モブシーンの何十人もの兵士が展開するカット。
逆に言うと、先に挙げた士郎正宗のマンガ、押井守作品の映画の画面との強烈な影響だ。
また別の意味では逆に、暴走バイクのカットは『マッドマックス』の自動車暴走シーンからは大きな影響を受けていると言える。バイクで言えば、テールライトの残像が線を描いて残るカットはアニメならではの嘘(実写のカメラなら、残光を捉えると背景が真っ暗になるし、バイクが映るようにすると残光は線として残らない)だが、猛烈に格好良い。
アニメファンとしての問題点は、素人声優の演技、特に超能力者の女の子キヨコだ。比較的本作のキーとなる人物だけに、引っかかる。そもそも(現実の病気にもある)子供なのに老化してゆく、と言うだけでも違和感があるのに、さらに不自然な演技ということで二重に感情移入できないのだ。
あとはキャラに男も女もいわゆる「萌え」要素がないので、どっぷりとハマりづらい。逆にいえば、「絵」と物語そのものに入り込めると言える。
メカフェチ的には、デザインそのものの洗練さはないが、「機械」としての存在感は抜群。
大友個人の左翼的思想なのか、当時の大学紛争の延長線上にある時代背景なのか、あちこちに武力革命的な落書きが描かれていることも好みが別れるかも。この辺は警察をメインにした士郎正宗作品とはネガ・ポジの関係にある(反面教師?)。
劇伴的には、暴走バイクのパーカッションや、アキラの超能力の発言に合わせて、「ダーン、ダーン」というメロディに厚みが出て、最終的にはスキャットが入る、という演出(ファミコン迷宮組曲』のボーナスステージと似た構成)が上手い。ただし、それ以外は大したことない。

ドラマ的には『ナウシカ』『ヤマト』『ガンダム』『エヴァ』がアニメ史上のマイルストーンだが、アニメ表現的には、それらに並ぶか、それ以上の表現が盛り込まれている。実写映画における『ブレードランナー』である。
萌えキャラと最新CG技術でリメイクすれば大ヒットするかもしれないが、手書きアニメの凄さも含めた、膨大な熱量と、それを支えるカネがないと、薄めたコーヒーみたいなペラペラ映画になるだろうなぁ…。

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大友克洋

ジェネオン・ユニバーサル 2011-06-22