思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『一万三千人の容疑者』☆☆☆★

てっきり西村京太郎原作かと思ったら、全然違った。何しろ白黒映画だしね。むしろパクったのは西村京太郎のほうか。
名前だけは知っている「吉則ちゃん誘拐事件」を元にしたもの。名前だけは明彦に変えられているが。
音楽は伊福部御大。いつもの、どこかで聴いたようなメロディが聴こえる。
事実を元にしているせいか、フィクションならあり得ないような、無計画というか、行き当たりばったりの要求が来る。
このあたり、本作では犯人逮捕後も含めて、誘拐後の裏側が全く描かれないのが特異な点。
本作は刑事物としても渋くよくできていて、いつもの1.3倍速ではなく通常速で見させられる出来の良さがある。

以下、ネタバレ

犯人を捕まえてみれば、真相は明彦ちゃんはさっさと殺していた、というもの。警察の裏を出し抜く計算された計画もなく、逮捕の決め手も、後だし的に分かった事実と証言の齟齬が出たから、というだけ。
もちろん現実では、地道な捜査によるものなのだが、これがフィクションだとしたら、全く伏線もどんでん返しもできていないダメダメ脚本……と言われること必至。
ところが、ノンフィクションということを措いても観られるのは、飽くまでも犯人を追う刑事ドラマとして構成されているからだろう。
そう、本作は警察がどうやって誘拐犯人を捕まえたか、だけに主眼を置いた刑事ドラマであり、犯人がどうしたかは問題にされていないのだ。
大誘拐』とか『新幹線大爆破』なんかとはそのへんが根本的に違うところ。