思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

ストラディバリウスを上手に盗む方法』
☆☆☆★

ストラディバリウスを上手に盗む方法』☆☆☆☆
作者お得意の芸術ミステリの一環である音楽ミステリ。最初から最後までオーケストラや楽器に関する蘊蓄で埋め尽くされ、犯人の動機、トリック、推理の決め手のすべてが音楽に関するもので、ハードSFならぬハード音楽ミステリとでもいうべき中編。純粋にトリックそのものは似たような前例がゴロゴロあるが、そうすることが通常でもありえる、専門家なら常識、という手を使っているのがポイント。

『或るワグネリアンの恋』☆☆☆☆
ワーグナーに関するツッコミを満載したもので、作者の美少女に振り回される某長編ドタバタミステリを連想させる構図。ワーグナーについて詳しくなくても楽しめる。いかにも短編らしい軽めのオチ。

『或るワグネリアンの蹉跌』☆☆☆☆
ワーグナーにハマって不思議ちゃん扱いされる女子の反省を描いたスラップスティックコメディ。ミステリー度はほぼないのだが、普通に楽しい短編。


『或るワグネリアンの栄光』☆☆☆☆★
作者のドタバタギャグ方面のセンスを活かした、ワーグナー縛りのクイズ大会。セリフはないが、前2作の登場人物が回答者として登場するのが楽しい。厳密には二行目だが、いわゆる「最後の一行もの」トリックである。

『レゾナンス』☆☆★
奥泉光が書いたと言われても分からないくらいの音楽(ヴァイオリン)をテーマにした(幻想)小説。ヴァイオリンの調律の仕組みやピアノとの違いなど、音楽の勉強にはなるが…。

ストラディヴァリウスを上手に盗む方法ストラディヴァリウスを上手に盗む方法
深水 黎一郎

河出書房新社 2017-05-17


『スイートリトルベイビー』☆☆☆★
テーマは「なぜ人は幼児虐待をするのか?」。導入は、現実の児童虐待をリアルに描いているので、読んでいてつらいが、中盤以降は普通のSFホラーになるのでご安心(?)を。
肝腎のテーマの回答は、どこかで同じか、似たようなネタの作品を読んだことがあるし、それを上回る説得力や斬新な切り口もなかった。敢えて同じではなく、似たようなテーマでは『幼年期の終わり』とまでは行かないまでも、『ふたご』くらいの説得力や意外なテーマへの持って行き方のひねりが欲しかった。ミステリとしては中盤でネタが割れるし、SFとしては「それ」のバックボーンが弱いし、人類の宿痾または寄生虫として、幼児虐待を根絶することが不可能な悲惨さを強調しても良かったのでは?(読後感は序盤を読んでいる時以上に陰鬱なものにならざるを得ないが)