思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『最後の敵』山田正紀
☆☆☆☆★

再読。ほぼ四十年前の作品だが、これ、間違いなく山田SFの最高傑作であろう。
天明元年…』であった『宇宙の孤児』的な設定、神との戦い、ライバルとの肉弾戦など、山田SFの全てが詰まっていると言って過言ではない(言語テーマだけは控え目)。
現実への懐疑的視点も、前後の作品と比べて、四次元生物への進化という設定で巧みに読者が納得できるものになっている。
ある種『マトリックス』的な、二つの世界の描き分けも、新宿や東京の下町、そして唐突にも思えるディーゼル機関車の細かい描写(単なる作者の趣味?)など、面白い対比になっている。
山田SFのライフワークとも言える「神との戦い」というテーマも、(『神刈り』や『弥勒戦争』などとの決別、差別化の意図か?)直接の単語は避けつつ、「進化」または「創造主」として描かれている。
物語が木星へと向かいそこで遭遇するものは、明らかにクラークのリスペクトによるもの。タイトルの意味も、ちょつと『まどマギ』を思わせる、時空を超えた壮大なスケールである。
山田作品は、1,5人称的な語り口が特徴。本作的に表現するなら、一人称と三人称の中間的かつ、二人称ではないといういみで、ルート3人称とでも言おうか。冷めた視点というか、まず、「○○である」と書いておいて、直後に「○○であるはずがない」と否定する表現がそれだ。
最後にオチとして宇宙の物理法則の4つの力に「進化力」と、「愛」を提示しつつ、これは単なる言い訳、恋愛ドラマ好きな一般人への皮肉ともとれるスタンスで幕引きしているのが面白い。
ごく最近の作品『クトゥルフ少女戦隊』でも印象的だった、巨大ゴキブリとのバトルもある。、生来好き(なテーマ?)だったんだなぁ…(^_^;)

最後の敵 (河出文庫)最後の敵 (河出文庫)
山田 正紀

河出書房新社 2014-10-07


ガルパン』人気にあやかって、次々に出ている戦車模型入門書のうちの一冊。
新規作例が7割くらい。雑誌「アーマーモデリング」を写真や説明を再構成したものが3割くらいか。後者についても、まんま再録ではなく、作り方説明や写真を増やしたりしているので、セコさは控えめ。
ナビゲーターの声優モデラー・中村桜は序盤だけに写真だけで登場するのでご注意を。どうせなら、雑誌でやってたチハ戦車を作った記事を何故掲載しない??
ウェザリングからチェメリットコーティングまで載っているので、入門から中級の手前くらいまでの内容紹介という感じ。どちらかというと、超初心者には『ザ・スターティングガイド・フォー・パンツァー・モデラーズ』の方が、具体的に戦車模型を作る時に何をするのか、というのがよくわかるかもしれない。

知っておきたい戦車模型のはじめかた知っておきたい戦車模型のはじめかた
アーマーモデリング

大日本絵画 2016-04-01


『浮世絵ミステリーゾーン』で凄いと思ったので、画集を借りてみた。
絵についての説明が、画題についての(歴史的?)説明だけなのがちょっと不満。技法や構図、ポージング、描写の特徴についてももう少し触れてほしかった。
基本的に、立ち切りや見開きで掲載されている絵については「おっ」と思わせるものが多い。
この人に限らず、昔の絵についてのポージングの不自然さについては、考えたら、歌舞伎の見得の影響が多いんだろうなあ…。昔は映画もアニメもないんだから、他に「かっこいいポーズ」ってのはなかっただろうから。
良かったものをピックアップ。
p22 「皿やしきお菊の霊」下手なポーズに見えるが、肩から上の「しな」と表情
p29 「阿倍比羅夫」クマと組み合う迫力と、巻き込まれてる手下二人が(^_^;)
p56 「托塔天王晁蓋」対照的な二人の妖怪の表情が凄まじい
p57 「燕人張飛」『北斗の拳』黒王のモデルかと思わせるような馬の迫力
p60 「上毛野八綱田」光と影のコントラスト、炎の中の人物の佇まいも美しい


月岡芳年: 血と怪奇の異才絵師 (傑作浮世絵コレクション)月岡芳年: 血と怪奇の異才絵師 (傑作浮世絵コレクション)
河出書房新社編集部

河出書房新社 2014-05-19