思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

プランク・ダイヴ』グレッグ・イーガン著/山岸真
☆☆☆☆
早川SF文庫

再読。

『クリスタルの夜』☆☆☆☆
おそらくオリジナルであろう『フェッセンデン』よりも『ドラえもん』の印象のほうが強いが、宇宙創造もの。加速減速が可能なシミュレーション上の人工生命が意識をもち、宇宙論の実験までしてしまう、というのはリアリティ的にイマイチピンと来ないのだが、そこはSF小説として受け入れれば、物語じたいは面白い。キリスト教的な創造主も、本作において右往左往する登場人物たちも同レベルなのではないか?という皮肉を読み取るのは私が日本人だからだろうか。

『エキストラ』☆☆☆★
小学生のころに読んだSFあるいはミステリー小説を思わせるホラーっぽい結末。移植のためのクローンの脳を欠損させておくことで倫理面の問題をクリアする設定が秀逸。意識の主体が脳だけではなく、身体全体の神経ネットワークに遍在・統合されている、というアイデンティティ問題への回答が面白いところ。

『暗黒整数』☆☆☆☆
ある種の人間原理的に数学の定理を証明することで世界の物理定数が確定する、という設定が面白い。物語じたいはハリウッドのパニック映画的なストレートなもの。

『グローリー』☆☆☆★
異星人に擬態してのファースト・コンタクトもの。冒頭の、ナノテクと素粒子物理学を駆使したテラフォーミングという過剰なハードSFファンサービスは、クラークがよくエピローグで無理やり異星人を出してくるのと同じなのかも。

『ワンの絨毯』☆☆☆★
生物コンピューターに意識が宿るのか、そもそも単なる化学的複製作用が、進化圧を生じるのか、という疑問があるが、その上を行く(生物コンピューターを前提とした)シミュレーション世界・生命の示唆によって、そんな疑問は吹き飛ばされる。

プランク・ダイヴ』☆☆☆★命を棄てても宇宙の真理、物理科学、数学的証明のためにブラックホールに飛び込む、という哲学者の心理が描かれる。もちろん、片道切符ながらラックホール内部の観測を可能にするナノテクや科学技術の説明があるからこそ、だが。

『伝播』☆☆☆
本書中では最もローテクというか、レールガンていどで、実現可能な近未来惑星植民が描かれる。もちろん、意識のコピーはまだまだの技術ではあるが。

解説によると、実はどれにも、さらっと書かれていることに堅実な科学的バックボーンがあるそうなので、物理科学に詳しい人ほど楽しめるハードボイルドなSF(まさしくハードSF)であるらしい。