思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『ケース・オフィサー(下)』麻生幾
☆☆☆★
幻冬舎文庫

もちろん本作の執筆にも膨大な取材がなされているのだろうが(日本のトム・クランシーと言っても過言ではないだろう)、どうも小説としての修飾が凡庸な感じがした。
楡周平の「朝倉恭介」シリーズにもこういうエピソードがあったが、やっぱりミサイルや戦車が出てこないと、もうひとつ燃えないような…。
さらにはバイオテロものはどうしても同じような展開にしかならず、小説としてのオリジナリティが出ないと思う。
小説としては、主人公がシリアで獲得する「協力者」が女性であり、彼女に恋心を抱く、というのが映画みたいでご都合主義。おまけに下巻あたりから捜査に積極的に協力するにも関わらず、その動機を語らないのも、ミステリーのプロットとしては最安直なものだ。
各組織の偉いさんが、自分の保身と出世のことしか考えていないのも、リアルなのだが、逆にこちらは小説的なスピード感を削いでいるからなあ…。

メモ
天然痘は地球上から根絶されたが、遺伝子的解析が行われる前に学問は終わってしまったのだ。つまり、病理学と遺伝子学との両方を合わせて分析されたことは一度もないのだ。それを行うためには天然痘に感染した人間を調べなければならないのだが、天然痘患者がいなくなったことでそれは行われなかった。(略)免疫や遺伝子の学問が発達する前に天然痘は消滅したからである。」