思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『政治無知が日本を滅ぼす 近代国家の政治倫理を理解せよ』小室直樹
☆☆☆☆☆
ビジネス社
1983年に『政治が悪いから世の中おもしろい』として出たもののリニューアル版。
ネロ、始皇帝ヒットラーなどなど、歴史的に暴君とされている為政者たちの実情と実績を検証したもの。
いままで思っていたことがひっくり返るという点では、『逆説の日本史』や歴史ミステリーを読んでいるような知的興奮を味わえるが、「構成に残る物質的、制度的遺産を作ることができれば、プライベートや周囲の粛清など問題にならない」という主張は結構過激なので、受け付けない人もいるかもしれない。

「「権力は腐敗する」「絶対権力は絶対に腐敗する」「。是れは政治学の大定理だから、四十年も同一政党に政権を任せ切って置いて腐敗したと言って喚くのは」
非難するほうが道理の分かっていないことだという。

ヒットラーはなぜヴェルサイユ条約で四面楚歌の中、軍拡できたのか。
ビスマルクは、1871年、念願叶ってドイツ帝国を統一した時、帝国議会で演説して宣言した。「ドイツ帝国の国策は平和である。私の念頭には、平和の事しかない……」
是れを聞いて、ヨーロッパ中が唖然とした。
デンマークを討ち、オーストリアを撃破し、フランスに城下の盟を成さしめ、たった七年の間に三回も戦争をして、(略)ドイツ帝国を(略)強引に作り上げてしまった。
其のビスマルクが、何言ってるんだと世間は信じない。(略)
しかし、其の後ビスマルクは、28年の執政の間、只の一度も戦争をしなかった。
其れどころか、得意の外交手腕を縦横に駆使して、外国同士の戦争も悉く防ぎ止めてしまって、幾度となく、ヨーロッパを戦火から救った。(略)
ロンドンタイムスは此の様に論じ、ヨーロッパの人々は、此の事を思い出した。
事に依ると(略)ヒットラーも、大宰相となり独裁権を入手した今日、(略)ビスマルクの路を進むのではなかろうか。」
当のドイツにこういう先例があったからこそ、様子を見ている間に取り返しのつかないことになったのだ。

「軍隊は、其の本質上、国家に属し、政府(其れが如何なる形を採ろうとも)に属するものではない(略)。警察は、仮令どれほど強力な武器を持とうとも、時の政府に隷属する。」

「「政治」は全く人間の外面的行動(略)のみに関する事であり、人間の“内面”とは無関係だ(略)。
従って、「政治倫理」もまた、100パーセント人間の外面にのみ関係のある「倫理」であり、内面に於けるものとは何の関係もない。
政治責任」が心情責任ではなく、結果責任であると言う根拠もまた、此処に由来する。」
それに関連して。
「近代デモクラシーに於いては、法的な最終決定は裁判官にあり、政治的な最終決定は選挙民にある。そして、倫理的道徳的な最終決定は、自分自身にある。」

田中角栄汚職でバッシングされた時、
角栄は何でこうタンカを切らなかったんだろう。
「俺は賄賂も取った。土地も転がした。(略)権謀術数の限りを行使して抗争もした……。しかし、其れが何だ。こうしないと政治が出来ないんだ。全てお国の為で、一片の私心もない」