思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

牙狼之介


☆☆☆★

特撮シリーズ『牙狼』の元ネタ(タイトルだけパクリ?)として、そういう作品があったのはどこかで見知っていたが、映画を観たのは初めて。
まず驚いたのが、題名。主人公の名前なのだが、「がろうのすけ」という名前ではなく、フルネームで、「きば・おおかみのすけ」であったこと(@_@)
あとは主役が地味(^^;) 映画史や俳優史なんか知らんので、単純に顔や演技だけでの印象からすると、名バイプレイヤーである土屋嘉男に似ている、つまりは主役の感じではない。
内容は、『用心棒』プラス『椿三十郎』みたい。『用心棒』における仲代達也にあたるのが、東映名脇役で『十三人の刺客』のライバル役の人。
あとは、五社英雄らしく、女郎屋の嫉妬による反目・喧嘩なんかが組み込まれている。
最初こそ、地味だが、尻上がりに面白くなる。演出面でも、刀の刃をナメて主役の顔のアップで、刀には向かい合うヒロインの顔が映る、なんて凝ったカットがあったりする。
劇伴も、縦笛が印象的。

吼えろペンRRR


☆☆★

中編というか、三作のうち、前後編もあるので、実質二篇。
最初は、「島本和彦」が経営するTSUTAYAが閉店するまでのエピソード。後半は、「お笑いマンガ道場」出演裏話。
そう、これ、キャラは炎尾燃だが、完全に作者である島本和彦そのものの話なのだ。おまけに、キャラというか、絵のタッチとしては完全に魅力のない、描きなぐったような線なので、全然面白くない。「マンガ道場」編は、絵についてはややましではあるが……。
これが同人誌でやってた『きのうの島本さん』であれば、普通に面白かったのになぁ……(´Д`)
例によって、島本和彦じしんの自画像で描かれているあとがきマンガがいちばん面白いって……(´Д`)

タンポポ


☆☆☆★

ほぼ情報ゼロで観た。最初に驚いたのが、冒頭に、いきなり「第四の壁」を破って、登場人物が語りかけて来ること。おまけとして、彼が若き役所広司であることが後で分かって、二度驚くが、それは本作の演出意図とは全く違うはなし(^^;)
『お葬式』とか『マルサの女』から、伊丹十三というと、固い映画のイメージがあったけど、本作は完全にコメディ映画なのだ。
タイトルのタンポポが、ヒロインの名前であることも衝撃だった。作中で名前を聞いた人が誰も驚かない。まあ、ダブル主人公である山崎努のほうもゴンだとか、へんな名前だから、映画における「仮名」なのだろう。
本筋は、惚れた後家がやっているラーメン店を山崎努が主導して立て直す、という話だが、そこに脱線がたびたび入る。
観ている間は、これが後々、どう本筋に繋がるのかと思っていたら、完全に関係ないでやんの(´Д`)
本作のテーマは「職人まつわるエトセトラ」であり、言い訳的と言う、もっとも大きなエピソードとしてラーメン編がある、というだけにすぎないのだ。
美味しんぼ』と、どちらか先なのかは分からないが、特にホームレス関係のエピソードなど、『美味しんぼ』で読んだなぁ、というのも結構あったりしたのも、評価が微妙になる要因だった。

劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き


☆☆☆★

ネコを追ったドキュメンタリー。追ったと言っても飼い猫だが(^^;)
飼い猫と言ってもさすがに都会の室内ではない。
舞台は2つ。北海道の牛舎で飼われる十匹ばかりの猫。もうひとつは、ミャンマーだかどこか、東南アジアの水上村の、とある家で飼われる猫たちだ。
どちらも、我々が家で飼うのとは異なる場面・場所なので、非日常的な生態ウォッチング興味がある。
たしかに、ドラマチックではあるので、かわいさと「生きる」ことのたくましさは感じられた。
ナレーションは、俳優の中村倫也と、カメラマンの岩合氏の2人が担当。中村のほうは映画的というか、感情移入的というか、暴言すれば、不要なもの。チャラい客向けの「ウリ」に過ぎない。むしろ、岩合氏のほうが、撮影時の印象がダイレクトに伝わるので、面白い。

逆説の日本史(27) 韓国併合と大逆事件の謎


井沢元彦
☆☆☆☆
小学館

「本来「エンペラー」とはローマ帝国の支配者およびその後継者に与えられる称号であり、「皇帝」とは中国本土の統治者の称号である。これと神の子孫である日本の統治者を示す「天皇」という称号はまったく別物」

「「銀行」は英語「BANK」の訳語ですでに香港などで使われていたから、中国語というべき(略)中国はずっと事実上の銀本位制だったから「銀」行なのである。日本は「金行」にすべきだという議論もあったようだが、「語呂が悪い」という理由で沙汰止みになった。」

「イギリスは植民地の民を差別していた。しかし、差別ということは逆に言えば「慣習には干渉しない」、言葉は悪いが「放し飼いにする」ということで、このほうがじつは反感を買わないのである。」

「伊藤は(略)軍隊に関する首相の権限を強化し文民統制ができるように憲法改正を考えていた(略)だから伊藤が暗殺されなければ、ひょっとして軍隊が暴走しやすくなるという憲法の不備は改正されていたかもしれない。」

「「ハングル」は、支配階級から徹底的に敵視され蔑視された(略)これを制定すること自体にも官僚から「漢字以外に文字など無い」という理由で大反対があり、やむなく名君世宗はこれを訓民正音(つまり文字では無く発音記号)と呼ばざるを得なかった」

『グレートメカニックG 2022年冬号』☆☆☆☆
何度目かのMSV特集だが、今回も良かった。『Vガンダム』までのMSVを俯瞰する内容と、ファーストのMSVに深入りする、両面作戦。
ファーストのMSVでは、今まで黒子として、あまり語られることのなかった増尾隆之氏のインタビューが必読。また、ストリームベースの同窓会的回顧鼎談も、ガンダム以前のアニメ模型事情が分かって興味深い。
その後のMSVの成立・裏事情も『MS図鑑』や『MS大全集』で知っただけなので、初出を知れたので勉強になった。
また「M-MSV」では大河原邦男画稿があまりなく、監修のみの機体も多いことも貴重な証言。そう言われてみれば、あれもこれも、というデザイン画稿が多いことが見えてくる。

映画大好きポンポさん

☆☆★

評判だったので期待して観たのだが……。最初は「ふんふん、めちゃくちゃテンポ良くて面白いやん」と思ってたが、先に進むにつれてどんどん評価が右肩下がりに(^^;)
要するにこれ、子供向け(あるいは仕事に疲れたアニメオタク向け)映画なんだよ。オトナ、なかんずく映画マニアには向いてないと思う。
展開が全部ご都合主義というか、どっかでみたようなピンチとそれを運か根性で乗り越えるだけ。そしてあり得ないくらいオールオッケーなハッピーエンド。これ、子供向けアニメの王道以外の何者でもないでしょ。

原作も知らないので、てっきり映画マニアの女子小学生が、実際の映画制作にたずさわるチャンスを得て、映画を作る、という話かとばかり思ってた。そしたら、全然違う。
主人公にしろ、ヒロインにしろ、黒髪っていうこともあるけど、どう見ても日本の小学生(せいぜい中学生)にしか見えん。
いくら親(ハリウッドならぬニャリウッドの伝説的超有名プロデューサーなんだそうな)の七光であっても、なんで幼稚園児みたいなのがB級映画でヒットを連発する名プロデューサー、というのを観客に信じろ、と言っても、少なくとも大人にはムリ(´Д`)
あと、何故か主人公ではない同級生(友人でもなく、しかも原作にもいないらしい!)が銀行融資のプレゼンで首脳部を説得するシーン。あんな内部の会議を勝手に全世界中継したら、クビどころか高額の損害賠償ふっかけられるでしょ? それがさらに上の会長が出てきてうまく行くあたりが、子供向けのご都合主義(楽観的)展開。
本作の長所を挙げるとすると、子供向けとして、映画制作の流れが分かる、という点。中でも、金が必要なことと、編集という作業の重要性だ。あと、最初の20分くらい、時間を前後させてテンポよく人間関係を説明するのは良かった。
アニメとして、地味な作業ほど派手にデフォルメされていて、特に編集作業で刀を持ってわけのわからない異空間を乱舞するところは、実写映画版『バクマン!』とそっくり。
アカデミー賞(作中ではニャカデミー賞)作中作(主人公たちが撮っている映画)の、何がどう凄いのか、少なくとも見ている観客には分からないんじゃない? 少なくとも、主人公が最初に作って、監督抜擢にきっかけになる15秒の予告編なんて、どこが凄いのか、最低限、名プロデューサーであるポンポを唸らせたのか、登場人物と同じものを見てるだけに、ドラマで料理を作ったその味なんかと違ってごまかせないのに、それが感じられなかったし。
少なくとも、まともな(?)大人が見るに際しては、ポンポさんを、幼女ではなく50歳くらいのゴツイおっさんであると変換して観る必要はある。舞台も日本にするか、そもそもキャラデザインを全員アメリカ人にするか。
アニメ映画の共通の問題ではあるが、声優陣も、大スター役の大塚明夫以外はプロパーの声優ではない人ばかりで、特にヒロイン役はひどい。まあ、これは業界共通の病なので、もはや突っ込む気力もないが・・・。