思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

生きる勇気

なにが人生を決めるのか
☆☆☆★
ルフレッド・アドラー著/坂東智子訳
興陽館

「「言葉」が社会の産物であることは、みなさんご存じかと思います。でも、「言葉」が、人の欠陥が原因で生まれることに気づいている人はほとんどいないでしょう。幼い(略)子どもは欲求が満たされないと(略)何らかの言葉を発することで、注意を引こうとします。
 ですが、注意を引く必要がないなら、まったく言葉を発しようとしせん。生まれて2、3カ月の赤ちゃんは(略)言葉を発する前に、欲しいものは何でも母親が与えてくれるからです。」

「人は、自分が何についての夢を見ているかがわかり、自分が酔いしれていたことに気づいたら、夢を見るのをやめるものです。(略)わたしは、夢を見ることが何を意味するかに気づいたとたんに、夢を見なくなりました。」

大阪弁「ほんまもん」講座』札埜和男
☆☆☆★
新潮社新書

「たこ焼きにソースが登場する(略)昭和30年代に入るまでは醤油味だったそうである。味としては醤油の方が上等だったともいう。」

「「いらっしゃい」という言葉が大阪へはいり込んだのは、大正中期以後のことで、それまでは、あくまでも「おいでやす」であった。」
私は大阪人じゃない関西人だけど、かねてから、「いらっしゃいませ」というのがめちゃくちゃ違和感があったのだが、これで氷解した。

「「よろしゅうおあがり」は(略)食べる前に欠けることばのように感じられるが、実は食べた後にかけられることばなのである。つまり「どうぞ召し上がって下さい」ではなく「よく残さずに食べてくれましたね」の意味を持つ。」

「ワイシャツは「ホワイトシャツ」の転」

『レッド・ホークス』☆☆☆★
原題は『CAN FEDA』で、米題は『TO DIE FOR』らしい。後者が直訳だとすると、『友のために』的な邦題が適当なのかな。
まず、トルコ映画、というのが珍しい。しかも戦争映画。まあ、戦争映画じゃないとトルコ映画なんて観ない、という私的な好みもあるけど(^_^;)
いきなり、前線に放り込まれる特殊部隊が主人公。現場は『高地戦』を思わせるような、斜面に面した廃墟で、丘の向こうから、敵兵や重機関銃を荷台に乗せたトラックがワラワラやってくる。
爆撃目標となるレーザー標的が故障したので、航空支援が得られず、決死の覚悟でFー16のパイロットは低空での直接爆弾投下を決行する。それは成功するが、離脱時に被弾して、敵地に脱出する羽目に。
中盤以降は、彼一人を救出する『プライベート・ライアン』みたいな展開になる。

サムライ・フィクション

☆☆☆★

半世紀ぶりに再見。
良いところと、違和感のあるところが同居する、という意味でアンビバレンツな映画だ。
良いところは、静的なカットも動的なカットも、全く飽きさせることなく、最初から最後までほぼ全カット、考え抜かれて撮影されているところ。
良くも悪くも、ミュージック・ビデオのセンスで取られた時代劇、と言える。バーとかでBGVとして流すのには最適(^_^;)
初見時は気づいたかどうか忘れたが、主に刀で切られたカットの血糊の代わりなのか、真っ赤になるカットは、カラーになる、というより赤を基調にしたモノトーン。黒のモノトーンと、赤のモノトーン、という転調に過ぎず、本当のフルカラーはデンドロールまでないのだ。詳しく言えば、背景は黒を赤に置き換えたのではなく、原色赤を配している、グラフィック的な処理が施されているのだが。
画像処理といえば、緒川たまきの肌の白さも印象的だが、一瞬(1コマってレベル)だけ顔の黒子が映ったので、肌を修正しているのがバレた(^_^;)

違和感のあるところ。
演技が下手な人がメインに何人もいる。まず、主役の吹越満は、とぼけた演技なのかも知れないが、セリフが下手に感じるんだよねぇ。セリフが下手といえば、緒川たまきも微妙。ただ、この人は声がめちゃくちゃ色っぽいから、それを補って余りあるんだけど。
布袋寅泰も、役者じゃないから仕方ないけど、セリフ以前に、今回一番気になったのは歩き方。侍の歩き方じゃなくて、完全に現代人の歩き方。どこがどう違う、と説明はできないけど、これがわかるようになったのも、わからないなりに、時代劇を観まくった効果か(^_^;)
その辺のフォローするかのように、風間杜夫とか、夏木マリという名優がドンと占めているのでなんとかなっているが、もう一人くらい、主役級に演技派がいても良かったのでは?

駆け込み女と駆け出し男

☆☆☆★

いまいち、作品のジャンルというか、どういうスタンスで受け止める(観る)かが、よくわからなかった。最初は、タイトルとか、大泉洋が主演ってとこから、コメディ時代劇だと思って(敬遠して)た。
ところが、実際に観てみると、始まった端から画面は実際に暗いところはしっかり暗いし、オープニングも構図が決まってるし、真面目というか、下手するとノワール系時代劇? という雰囲気すらあった。ヒロインの戸田恵梨香は亭主に虐待されてるし(まあ、テーマ的に、そうしないと駆け込み寺には行けないから、そのへんの胸くそ描写は本作には必須なんだけと)、序盤には確かに必要だったろう。
本作は、時代考証をしっかりした、本格時代劇なのに、観る人にそう思わせないところが問題。全然アイデアが浮かばないけど、『女寺 おんなでら』みたいな感じ?
アンビバレンツは、キャストにもある。戸田恵梨香は、最初、わからないくらい馴染んでいるし、綺麗。逆に、大泉洋は、前から好きでも嫌いでもなかったが、本作で決定的に「もうええわ(´д`)」となった。
本格時代劇という面を端的に表しているのが、駆け込み寺の入山審査機関みたいになっている宿の設定。ここの設定が映画だけではイマイチよくわからないし(作中で大泉洋が語るのが嘘、というのが拍車をかけている)、刀自が源兵衛という名前なのに、女性の樹木希林が演じているのも紛らわしい。代々受け継いでいる、というのも、若者以下の観客ではわからないのでは?
私のようなビジュアル至上主義者としては、室内や夜などがしっかり暗く、それと照明のコントラスを生かした画面づくりが素晴らしいので、画面に目を惹きつける強さがある。戸田恵梨香をはじめ、本作の女優人はどれも美しく、演技も上手い。私的には、それら全部にからむ大泉洋が鬱陶しい、と感じるんだよなぁ・・・。
駆け出し男はいらないから、駆け込み女だけで作って欲しかったなぁ。
なお、クライマックスにアクションを無理矢理入れたのかどうかは知らないが、主役だからって、戸田恵梨香に活躍の場を振ったのがバランスとテンポを崩してると思った。乱暴狼藉を働いている男の元妻である満島ひかりが弓矢を構えたところまではスピーディーな編集で、そこで『シン・エヴァンゲリヲン』バリに即座に矢を放っていれば、カタルシス的に百点満点だったかも。

エウロパ

☆☆☆★

原題は『EUROPA REPORT』。
アポロ18』のような感じ。低予算ながら、宇宙船の室内セットとエクステリア、惑星のCGに集中して金をかけることで、安っぽさを感じさせない。
記者会見と、ディスカバリーチャンネルのインタビューみたいなカットを除くと、ほぼ全てがゴープロ的な記録用カメラの映像。宇宙船の内外に20個くらいありそうなのと、宇宙服の顔のカメラ(目線カメラはともかく、記録用としては不自然かな?)などを編集してある。
SF映画100』で紹介されていたところからの予想で、『エイリアン』みたいな映画かと勝手に思い込んでいたら、最後の最後に一瞬だけアレが映る、というアメリカのテレビ特撮映画的な感じ。ひたすら地味で、ハードSF的なセンス・オブ・ワンダーもあまりない。むしろ『サーチ』みたいな印象だった。
土星や、エウロパの映像はちゃんと観測衛星のデータを基にしていて、美しかった。これを観られるだけでもいいのかもしれない。エウロパの地表の低Gがイマイチ表現されていないのが、唯一にして大問題かな。多分月よりも小さいでしょ?

以下ネタバレ

本作はモキュメンタリーなのか、ロスト・フッテージか最後までわからない構成にしているのが面白い。クルーの一人のインタビューのような映像も、実は自分に記録カメラを向けて喋ってました、というオチ。まあ『オデッセイ』でマット・デイモンも同じことしてたので、自己顕示欲の塊かい!? とばかりも言えないし。
そのくせ、記者会見の映像や、プロジェクトマネージャーのインタビューも織り交ぜて、それこそ映画全体がディスカバリー・チャンネル的に編集されている。そういう意味ではフェイク・ドキュメント。
エイリアンは引っ張って引っ張って、最後の1秒くらいしか全体像を映さない。ドゴラみたいで、『SF映画100』の紹介文は、ちょっと盛りすぎな気がしたけどね。